第五話 始めての田植え
横田城 阿曽沼孫四郎
それから数日が経過し、すっかり体調も戻って駆け回ってみる。父上が仕事を放り出して縁側に出てきたので願いを聞いてみる。
「父上、神様より御預かりしました籾を自ら育てとうございます。」
「ふむ、良いだろう。授かった貴様が育てるのが一番良かろうしな。量は一反分くらいだったか。それでは……金ヶ沢に田を与える故、上手くやって見せよ。」
神勅があってかずいぶん気前の良いことだ。
横田城から少し南側にある金ケ沢の稲荷近くの田んぼを耕す。この時代の東北の水田は湿田が多く。年中水が張ってあるので代掻きするだけで良い。ちなみに江戸時代の開拓地は膝まで水に浸かるような強湿田での稲作もなされたという。作業効率は悪く、収穫も余り伸びなかった。
また、そういう耕作適地とは言えないようなところまで作付けしたので、飢饉となればあっという間に被害が拡大する一因になったのではないかなーと前世では考えていた。年貢制度の限界だね。
傅役の浜田清之は馬を飼っておるので馬鋤で代掻きをしていく。この時代にかぎらず北東北は貧しいので武士といえど耕さねば喰っていけないのだ。いわゆる半農半士、あるいは屯田兵と言ったところである。
「どうだ孫四郎、順調か?」
「父上、まだ始まったばかりです故、順調と言えるかどうか」
「ほほほ。そこは嘘でも順調ですというものですよ。しかし、先日も熱を出したばかりなのです。あまり根を詰めてはいけませんよ」
「はい、母上。肝に銘じておきます」
代掻きと並行して畦の塗り固めをしていく。これを適当にやると水が漏れてせっかくの田がぱぁになるそうだ。しばらくすると馬共が疲れてきたのか息が荒くなっている。
「清之や、この馬共ではすぐに疲れてしまうようだぞ。あと数が少なくないか?」
「体が小さいですからな、すぐに疲れてしまいます。しかしこう見えても人が代掻きするよりは随分早いのです。それに馬は餌を沢山必要とするので余り多くは飼えぬのです」
「もっと大きな馬はおらぬのか?」
「日ノ本でこれよりも大きな馬は聞いたことがありませんな」
大きな農耕馬が手に入れば畑仕事の効率が改善されるし、商人が来たら聞いてみるか。時間はかかるが品種改良も考えておかねばな。使役用なら驢馬も良いかもしれん。疲れたら勝手に休むので故障しにくいし、餌は何でも喰ってくれるので馬より管理が楽なのも良い。
何でも改善できそうなところは改善していきたい。それと牛飼いたいな。馬より力強いし、持久力もあるし、何より肉とか牛乳が手に入れば栄養状態の改善にもつながるだろう。余裕がでたら牛も手に入れよう。肉が食いたい。
そういえば市が立つといってたな。牛が手に入るかもしれない。
「清之や」
「若様如何しました?」
「市はいつ立つのか?」
「月に一度、丁度明後日ですな」
「行ってみたい」
「人出がおおいので喧嘩物取り、刀傷沙汰も少なくありません。…行くのは良いですが、はぐれぬようお願いします」
月に一度の市で、半ば祭りのような賑わいとなる。売り買いの交渉で喧嘩や刀傷沙汰はわりと茶飯事だというが、清之が付いておるし大丈夫だろう。
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