第四話 神様は白蛇?

 城下を見て回ることにした。清之の手を引きしばらく歩いていると人が倒れている。


「清之よ、そこに人が倒れておるぞ!」


「あれはもう死んでおります」


 確かによくみると一部白いものが見えている。


「なぜこの者は死んだのだ?」


「飯が足りぬのです。身体の弱い者からああやって死んでいくのです」


「なんと……。飯はすぐにどうこうしてやることが出来ぬな。せめて供養してやろう」


「若様はお優しいですな」


 近くに穴を掘り、埋める。無縁仏とて供養してやるべきだし、野ざらしにするのは衛生上も良くない。


「荼毘に付してやりたかったがすまぬ。南無阿弥陀仏」


 しかし、令和の時代に野垂れ死になどめったにないものだというのに、この時代では飢饉で無くとも常に隣り合わせなのか。


「なんとかせねばな」


「それには領内を富ますか、よその土地を奪うしかありませぬな」


「奪うのか?」


「豊かな土地を手に入れればそれだけ食うに困らなくなりまする」


「しかし、その土地におるものはどうなる?」


「抵抗するなら殺して奪うしかありませぬ」


 殺してでもうばいとる。なるほどこれが戦国の世か。前世の価値観では許されることではないが、ここは戦国の世、自力救済の時代だからこちらにあわせねばなるまい。昭和でも水利で村ごとに争いはしていたと聞くし、自分が死んだら元も子もないからやむを得ないか。


「いずれは誰も餓えに苦しむことがないようにしたいな」


「やはり若様はお優しゅうございますな。ますます感銘いたします」


 そういえば戦国時代における日本の人口はせいぜい1000万人前後と聞いたことがある。その半数は播磨から武蔵の地域であり、陸奥と出羽は合わせても100万人にも満たない。こんな人口では開墾も鉱山開発も殖産興業もままならぬ。どうしたものかと悩んでいると、久しぶりに高い熱を出した。



「こらこらあんた。この世に来る際に亀の尾という寒さにつよい米をやったでしょう。目が覚めたら家神の棚を見なさい」


「そうそう、それとそろそろ一人良い子が行くわ。楽しみにしていなさい。」




「う……む」


「若様!お目覚めでございますか!?」


 清之が覗き込んでくる。強面を近づけないでくれ、病み上がりにはキツイ。


「清之か。心配をかけた」


「いま、殿と奥方様を呼びにやりました故、しばしお休みください」


 すぱぁん!と言う音共に父上と母上が入ってくる。二人とも一心に祈りをしていたようで隈が浮いている。


「父上、母上、ご心配をおかけしました」


「なに。童が熱を出すのは当然だ。ただ良く戻ってきた」


「おぉおぉ、そなたが無事であれば母はなにも言うことはありません」


「殿、奥方様、若様、某が連れ回した故にこのような事態になり誠に申し訳ございませぬ。斯くなる上はこの腹を切ってお詫び申し上げる所存!」


「まってまって清之!そんな簡単に死なないで!」


「清之早まるでない。こうやって戻ってきたのでそれで良かろう」


 腹を出し脇差しを今にも刺そうとしたところで止める。傅役がそんな簡単に死なないで欲しい。


「ところで孫四郎よ体はもう良いのか?」


「はっ。この通り元気でございまする。腹が空きました。何か……粥が食いたいです」


 小姓が呼びつけられ、台所へと駆けていく。


 まあまだ少しだるさは残っているが、飯を食うくらいの元気は有るので粥を所望する。粟は甘みがあってうまい……気がする。病後にもおすすめだ。たぶん。


 夢で神棚に寒さに強い米を授けるとのお告げがあったことを話をする。


「寒さに耐える米とな?ふむ神棚にあると」


 父上が神棚を探しに行く。しばらくすると人の頭ほどの麻袋を一つ持ってきた。


「これがその米か?なんじゃ見た目は普通の米だな」


「孫四郎や、その神様はどのようなお姿だったのかしら?」


 夢に見た神様は白蛇であったことを告げると、蛇は水にかかわるので水神か田の神ではないかとのことだ。


「先日、爺やに頼んで城下を見て回りました際に、餓えで死んでいる者を見ました。そのような餓える者が居なくなるよう神仏に祈りましたところ熱が出たようです」


「若様は神勅を得たと言うことにございますな」


 清之が、いや父上も母上も冷や汗をかいておる。


「うむ、そうかもしれんな。孫四郎の快癒と新たな米を授けてくれたことを神様にお礼の祭りを行おう」

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