第六話 出会い

横田城脇 浜田邸


「今日の手習いはこれくらいにいたしましょう。ところで若様、今日は某の娘にお会いになってくださらんか?」


「そなたの子とな?もちろんかまわぬぞ。」


「今年三つになりました。だいぶ話せるようになりました故、一度若様に挨拶させておこうかと思いましてな」


 そう言うと戸襖をあけ、子供を招き入れる。招き入れられた子は普通の子じゃ無いような感じがする。


「雪と言います。若様ほどではございませんが、娘もなかなかの神童だと思っておりまする」


「雪でごじゃいましゅる。わかしゃま、よろしゅくお願い申し上げましゅる」


 開いた戸襖の奥から女の子が挨拶してくる。


「阿曽沼孫四郎だ。こちらこそよろしく頼む」


 数え三歳でこの物言いができるとは。二歳児相当なら二語文がせいぜいのハズ。明らかに異常……なのかな。もしやお告げで言われた転生者か?


「如何でしょうか、若様。誰が教えたわけでは無いのですが、いつの間にかここまで話せるようになっておりました」


「謙遜せずとも良い、そなたらの育て方が良かったのであろう」


「ははは。であればうれしゅうございますな」


 満更でもない表情で清之が応じる。しばらく雑談していると清之が厠にたち雪と二人、座敷に残る。


「若様は、そのお歳で大人よりも知識に明るいと父がよく言っております。若様は前世とかは信じられますか?」


 おっといきなり話し方が変わったな。こちらが“素”か?


「前世か、あまり信じていなかったのだが、今生に転生させていただいたのでな。もしや君もか?」


「はい。先に一人送ったので頼りにするよう仏様?神様?に言われておりました。いつ会えるのかと心配しておりましたが、こんなに早くお会いできるなんて!」


「ふふそうか。俺は元々ただの会社員だ。トラックにはねられそうになったベビーカーをかばったら、神様に助けられたのだ」


「へぇー。あっ、もしかしてあの事故ですか?」


「知っているのか。助かったとは神様から聞いておるが、あの子は元気か?」


「あの子の両親が赤ん坊をつれてあなたのお葬式に行っている様子はテレビでやっておりました」


 神を疑うわけではないがこうやって聞くと安心する。


「ふふっ。優しいのですね?」


「優しいと言うかな、とっさに身体が動いただけだからな。死なれても目覚めが悪い。」


雪が優しく微笑む。少しドキッとしたのは内緒だ。三歳児の表情じゃないような。


「若様はこの世でどうされるのです?」


「そうだな。まずはこの遠野で餓える者が居なくなるよう豊かにするのが第一目標。同時に攻められない程度に防備を固めつつ、釜石とその周辺、そして北海道に向かいたい」


「釜石は鉄がありましたね。それにしても北海道ですか?」


「鉱物資源が多く、攻めても後腐れの少ない地域だからな」


「ふうん。私はあまりそういう勉強が得意ではなかったので、そっち面でのサポートは難しいけどよろしくお願いしますね」


「まあ、俺は趣味で日本の鉱山とか調べていただけで歴史には詳しくないんだよな」


「ふぅん。ところで若様、お願いがあるのですが。この地は寒くて敵いませんので、定番のチート道具な暖かいお布団と暖房を早く作って欲しゅうございます」


「……善処する。」


 雪がにっこりと微笑みながらお願いしてくる。可愛らしいのが悔しいな。雪は雪でグループ旅行でスノボーに行ったら雪崩に巻き込まれたということだ。雪崩に巻き込まれたのに雪とかちと名付けがかわいそうだな。


 ドスドスと清之の足音がする。子供モード再開だ。


「おやおや、若様と雪は随分仲良くなったようですな」


「わかしゃまのお手伝いするのー」


「おおー、そうかそうか!これは将来が楽しみじゃわい」


 がははと笑う清之に俺は作り笑いで応える。この世でサポートしてくれる者を得られたのは大変ありがたい。知識とか有るに越しはせんが、何より現代を生きた記憶の有る者が側に居るだけでかなり心強く感じるのだ。

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