第5話 孤独への親近感
「ひと悶着に終止符が打てたのはよかったけど、そんなことより君が担いでいるのは攫ってきた子かい?」
「ちげーよ。親父に半ば無理やり押し付けられたんだ。」
レントがコグレに当てた殺気は的確に射抜いた。しかしそんな殺気を放った男の周りにいる人たちに影響が出ないわけもなく。自分に向けられたものではない殺気に触れた三人は仲良く倒れこんでいるのである。その姿を見たレントはコグレが気絶してすぐ心配して駆け寄ったが、「自分たちが不甲斐ないせいなので心配しないでください。」とハダネに突っぱねられたため、内心で「自分もまだまだだな。」と思いつつもそこから軽く離れたのだった。
「バルトさんが押し付けてくるってことは、訳ありかい?」
「ああ、こいつのせいで俺の町ブラの時間が一気に削られそうだ。」
そういいつつも無意識に口角が上がっていた。
「なんだか嬉しそうだね。」
「そうか?まあ昔の自分を見た感覚を覚えてどこかノスタルジックになってるのは認める。」
こんな会話を三人の調子が完全に戻るまで続けるのだった。
「やばい、そろそろ戻らないとうちの副隊長に怒られる。」
「悪いな、うちのゴタゴタを止めてくれて。」
「今度手合わせしてくれればそれでいいよ。」
「そうか、そいつは助かる。」
そういってシュウヤとは別れた。そこから本来の目的地へと向かい、隊員たちに向けて改めて
葛葉隊に割り当てられている部屋の前に到着し、ドアを開けるとそこには真ん中に九十度で折れ曲がった横つなぎのソファーが置かれ、その前には低めのテーブルが置かれた共同スペースが広がっていた。
そんな共同スペースであるホールの周りにそれぞれの個人部屋があり、プライベートが確保されている。共用キッチンやお風呂、トイレなども完備のため、食事は基本的に一緒にとる形になる。
そんな共同スペースでレブンについての説明のために全員がソファーにそれぞれの楽な姿勢で座る。全員が話を聞く体勢になったのを確認したところで説明を始める。ちなみにレブンはいまだ気絶したままのためレントの横に寝かせる。
「というわけでこいつをうちで引き取ることになった。」
「まさか私たち全員でその子の面倒を見なきゃいけないんですか?」
あまりに唐突な決定事項にハダネから当然の疑問が飛んでくる。部隊全体に影響することを隊長の独断で進められれば普段から一部隊を隊長に代わって統括する立場の人間は文句の一つも言いたくなるものである。
「そもそもうちはライト一人見るので手一杯なんだけど。」
「俺はそんな子供じゃないよ。それに弟分ができるなら俺が面倒見てやりたい。」
「自己管理できないやつに面倒見てもらうほうが不憫だからやめときなさい。」
ライトからは賛成の声が上がるもののミズナの一言でライト自身も問題であることが露呈し、レブンを隊で世話することがさらに厳しくなった。
「安心しろ、こいつには俺が常につく。お前らには家族、友達、同僚、どれでもいいから、ただ接してほしい。人とは何か、つながりとは何か。こいつにはそれが肌感覚でわかる環境にいてもらいたい。」
レントがレブンを預かることを相談ではなく決定事項として話した理由はここにある。レブンに欠落しているものはさまざまあるが、レントが最も早急に教えたいと考えていることが人とのつながり、優しさである。心のない獣に進歩はない。成長するための軸になるのが心である以上、心とは何かを教えたい。ただ言葉で伝えるのではなく人に触れることで学ばせる。そのために自分の部下に頼るとレブンを預かると決めた瞬間には考えていたのだ。
そんなレントの考えを聞いた三人は困惑した。普段から町ブラをして隊としての出動の時にもいない。そんな男がなぜ一人のほぼ見知らぬ少年のために頑張ろうとしているのか。それが不思議でならなかったからだ。
「どうして、その子のためにそこまで動くのですか?」
ハダネの投げかけた問いには寂しさが混じる。他二人の表情からも似た感情が伝わってきた。それを受け止めつつも自分なりの理由を答える。
「こいつは一言で言えば人間としての感性が壊れている。おそらく自分の思い通りに動かない奴は殺してもいいとすら考えているだろう。俺も頼みを断ったらすぐ殺そうとしてきたしな。まあそれだけなら正直俺以外の奴でもいい。だがこいつは体内に雷那(いずな)を飼っている。それも明確な自我を持っている。そいつをてっとり早く矯正するには俺が抑止力となりつつも人として育てるのが一番効率がいい。」
「隊長はそんな理屈で積極的に動きませんよね?」
「ああ、今説明したのは建前の部分が大きい。俺がこいつのために動くと決めたのは、こいつが昔の俺と重なったからだ。おそらく俺は誰よりもこいつのことがわかる。憎たらしいぐらいにな。だからこそ誰よりも俺がこいつに必要なものをわかっている。」
何の因果か、レントが葛葉バルトに拾われるより以前も今のレブンのような鋭さと危うさをその身に秘めていたのだ。それがバルトに育てられ今のような性格になったのだ。だからこそバルトには尊敬と感謝をしているし、レブンのような存在を目にすると過去の自分と重なって思わず手を差し伸べてしまうのだ。おそらくバルトもそれをわかったうえでレブンを紹介してきている。
「まあ説明ばかりしていても埒が明かない。ここは件の少年を起こすことにしよう。」
そういって横で寝ているレブンの頭に触れ、微弱な電気を流して脳から無理やり起こす。するとスーパーボールのように跳ね起き、首をしきりに動かして状況把握をし始める。そして視界に
「おいおい、いくら思い通りにいかないからってむやみやたら殴りかかってくるなよ。」
「『グルルルル。』」
「ありゃ、こりゃ余計なやつまで叩き起こしちまったか。」
そこで殴ってくるのを防ぐために掴んだ腕をそのまま一本背負いの要領で引っ張り上げ床に叩きつける。衝撃で空気が抜けた声がレブンから聞こえてきたが、気にせず袈裟固めを決める。
「さて、お前は今誰だ。」
「俺が誰だと?」
「
「イズナ?何言ってやがる?」
自覚症状も知識もなし、っと。今のはおそらくレブンとその中の雷那(いずな)の感情が同調した結果若干表出化したってところか。てか基本知識ぐらい事前に教えておいてやれよ親父。そう思いはしたがそれより今は隊員たちにレブンを紹介するのが先だ。
「改めてこの反抗期拗らせ少年が
「起きて速攻技決められてる少年を紹介されても誰も親近感湧かないよ。」
「そんな生意気なやつにかまうくらいなら俺を鍛えてくれよ隊長。」
「せめてまともに意思疎通できる状態にして連れてきてください。」
俺のインパクトある紹介にミズナ、ライト、ハダネの順に冷たい言葉が投げかけられる。当たり前だがこいつが馴染むには障害が多いことを改めて察して内心ため息をつくのだった。
ライデン・ハート ~脈動する雷心~ 荒場荒荒(あらばこうこう) @JrKosakku
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