第4話 属する者たち
雷光真衆(スパークル)の本拠地に着き、隊長である
そこへ向かう途中ではひそひそ話が聞こえてくる。曰く「自由奔放な隊長が帰ってきた」とか「武道場に例の隊長が入ってから付近が急にうるさくなった」とか明らかに心当たりのあるものばかりだ。十中八九自分たちの隊長であるレントの話題であることは間違いないだろう。そう思いながら目的の部屋へと歩いて向かう。
「そこにいるのはあの葛葉隊の皆さんじゃないですか。」
「はー、何か用ですか、
後ろから話しかけられた声で誰なのか察したハダネが露骨に不機嫌な態度で答える。それもそのはず、今話しかけてきた男は葛葉隊のことを馬鹿にしてはハダネだけを隊に勧誘しようとする、いわばストーカーのような存在なのだ。そんなやつに話しかけられて嬉しいわけもなく、最低限の体裁は守りつつも言葉には棘がある。
しかも厄介なことに彼は隊長という部下を率いる立場につけるくらいには戦闘能力は高い。ハダネでも確勝できるかわからないくらいだ。むしろこの場合は隊長と渡り合えるハダネ副隊長のほうがイレギュラーと捉えるべきかもしれない。
「相変わらず冷たいね。まあ、そんな反抗的な君だからこそ仲間に迎えたいと思うし、葛葉隊でくすぶっているのがもったいないと思うんだけどね。」
「余計なお世話ですね。特に用がないのなら行きますよ。」
「あの男、久しぶりに帰ってきたそうだね。」
その一言で三人の足が止まる。次に続く言葉を想像して苛立ちを覚えたからだ。
葛葉レントという男に対する印象や評価はバラバラで、嫌いでもなければ好きでもないという結論で落ち着く。つまりレントが帰ってきても「あー、帰ってきたんだ。」程度の感想しか周りからは出てこない。それでも噂が出るのは帰ってきてから組織全体の動きが活発になるからである。それだけ葛葉レントの組織内における存在感は大きい。
そんな彼に対し、今ハダネに話しかけている男、
一方で
「忘れたころに帰ってきては組織に波紋を起こす。まったく上層部はなぜあんな男を放置する。ああいう男こそ徹底管理しなければならない。そうは思わんかね、御子神君。」
「思いませんよ。うちの隊長が一組織で管理できるわけないですから。従えようとすれば滅ぶのは組織のほうです。」
この口ぶりからわかるようにハダネの中でレントの評価は非常に高い。それはある意味当然ともいえる。それだけ高い評価を下していなければ自分の隊を率いる存在を自由にさせている理由がないからだ。つまりハダネがレントの自由行動を容認しているということが、目先のデメリット以上の大きなメリットがあると考えていることの証明である。
「もはやそこまであの愚か者に毒されていたか。ならば強引にでも救い出さなければならないな。」
レントに対する嫌悪感が溜まりに溜まった結果よくない思い込みをしているらしく何やら雲行きがどんどん怪しくなってくる。
そしてここでコグレの自分勝手な発言に我慢できなくなったライトがしびれを切らして割り込む。
「黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって。お前にレント隊長の何がわかるっていうんだよ。」
「口の利き方がなっていないガキだね。隊長の質が伺えるよ。」
「なんだと。」
枡川コグレと小灯ライト、二人の怒りは言い合いすればするほど溜まっていき、ついにはお互い戦闘態勢一歩手前のところまでしまった。
「落ち着きなさいライト。ここで武器を抜くということはあいつと同レベルだと示しているようなものよ。こっちも帰ってきたばかりで疲れてるんだからさっさと帰るわよ。」
一連のやり取りでずっと蚊帳の外でいたミズナがさすが止める必要があると判断し、ライトを宥める。ただその文言が良くなかった。
「そこのガキと私を同レベルと
そういって懐から3×3のルービックキューブの形をした真っ白な物体を取り出した。そこに電気を流すとコグレが好んで使う武器へと変形する。出来上がったのは槍、それもトライデントとでもいうべき三叉の槍であった。
「科学の進歩についていけない貴様らが手にすることがないだろう武器、究武(キューブ)の錆になるがいい。」
その言葉とともに攻撃を仕掛けてくる。そうなればハダネ、ライト、ミズナの3人も応戦しないわけにはいかずそれぞれの武器を構える。
しかしそんな双方の間に人が割り込み、コグレの槍をレイピアで防いだ。
「『隊員同士の私闘を禁ずる。』それは君の好きな組織内の規律にも定められていたと思うんだけどね。」
「!?
周りの人間が巻き込まれまいとする中、堂々と割り込んだのは月舘シュウヤという男。白髪で線の細い色白のイケメンである。その見た目、雰囲気から女性人気が異常に高く、男性からは妬む声すら上がらないほど完成された人物で、月舘隊の隊長としてレントやコグレと同じ役職についている。ちなみに今回はたまたま通りかかり、面白半分に成り行きを見守っていたところで介入したのである。
「これは私闘じゃない、粛清だ。何も弁えない、理解しない馬鹿どもに教育を施してやろうというのだ。邪魔するな。」
「私闘かどうかの判断は当事者ではなく第三者に委ねるものだよ。じゃなきゃ歯止めが利かなくなる。だから今この場で最もふさわしい人物に判断してもらおうか。」
そういってシュウヤはハダネたちがいるさらに奥のほうを見て話しかける。
「君はどう思う、レント。」
「ん?俺でいいのか?俺だと不平等なジャッジになると思うが。」
声のするほうを皆が一斉に見るとそこには気絶したままの
「だよね。ただ話の流れ的にちょうどいいと思ったからふっただけ。多分この場合は僕が判断するのが筋かな。」
「じゃあわざわざ話しかけて俺の存在ばらすなよ。せっかく今度こそ遅れて登場するヒーローになろうと思ってたのに。」
「やっぱり邪魔しといてよかった。」
「お前性格悪いぞ。」
「君よりまともさ。」
その会話っぷりはまさに親しい者同士だからこそ生まれ得るものだった。そんな状況を当然コグレが看過できるわけもない。何よりコグレにとってもはや怨敵ともいえるレントが自分が気づかないうちに現れたのだ。悔しさと苛立ちから先ほど以上に怒りの感情を爆発させる。
「葛葉レント。いっそ貴様を粛清して組織の膿をもろとも潰してやる。覚悟しろ!」
「覚悟っていうのは自分が何かに怯えた時に決めるもんだ。それにせっかくシュウヤが止めてくれた喧嘩だ。それを俺が引き受けて無駄にするのも馬鹿らしい。」
次の瞬間的確にコグレを睨みつける。それだけでコグレの槍を持つ手が震え始める。小動物のような怯えを敵への怒りで無理やり抑えつけようとする。が、それでも気を失わないようにするだけで精一杯だ。特別なことはない。ただ明確な殺意を視線に凝縮してぶつけただけだ。指向性を持った殺意、それをただ一点に向ける。
「お前が俺のことをどう思おうがどうでもいいし、お前に嫌われようとも何とも思わん。俺が万人から好かれるような性格も行動もしてねーからな。だがだからといって俺の部下にその怒りをぶつけるってんなら俺は容赦しねえ。心折れるまで潰してやる。」
その言葉を聞き終えたのを最後にコグレはその場で気絶するのだった。
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