第3話 懐の雷
葛葉(くずのは)隊、正確には
そんな強者は今呼びだしをくらっていた。呼びだしてきたのは
そんなレントを超える根無し草のバルトが指定してきたのは雷光真衆(スパークル)の本拠地の中に設けられた武道場。入ってみると普段通りみすぼらしい恰好をしたバルトが腕を組み仁王立ちした状態で立っていた。もっとロイヤリティーの高い恰好をしていたならば豪気な王様のように見えたかもしれないが、灰色のぼろ雑巾に身を包んだような見た目のせいで台無しである。
そんなバルトの横には一人見覚えのない少年がいた。見た感じおそらく自分の隊の
「親父、子供の誘拐はよくないぞ。」
「おい、人聞き悪いこと言うな。こいつは孤児院から引き取ってきたんだ。お前の時みたいにな。」
レントもかつてはとある孤児院で幼少期まで育てられていたところをやむを得ない事情でバルトが引き取ったのだ。おそらく目の前の子も同じような事情で引き取ったのだろう。
「で、なんで自分が引き取ってきた子がここにいるんだ。」
「お前んとこに預けるためだよ。」
さらっと爆弾投下してきた。自分で拾ってきた子を押し付けるのは勘弁してほしい。というかせめて事前に一言断っておいてくれよ。
「そんなわけでほれ、自己紹介。あとお前にお願いがあるらしい。」
「
どうやら親父が余計なことを吹き込んだらしい。この状況が面倒なのは間違いないがそれ以上に少年の若干後ろでニヤニヤしている親父が何より腹立たしい。ニヤけてないでこの暴走少年何とかしろよ。そんな内心を表に出さないようにしつつ、なんとか目の前の少年とコミュニケーションを図る。
「いろいろツッコミどころはあるがまず何よりも、人にものを頼むときはそれ相応の振る舞いは必要になる。お前がどんな境遇でどう育ったかとか、お前の周りではどんな常識があったとかは関係ない。俺は最低でも最低限の振る舞いすらできないやつのお願いなんて聞く気はない。俺はすぐにでも街ブラしたいんだ。」
そういって軽くあしらう。親父は想像の範疇だったのか「やっぱりな。」みたいな顔をしているが、レブンのプライドは大きく傷ついたらしく顔がわかりやすく真っ赤になっていた。
「…殺す。」
レブンがそう小さく呟いた瞬間、明確な殺意とともに心臓を的確に狙った
(危険だな。)
内心そう考えつつ伸びてくる右腕の左側に回りこみ、その手首をつかむ。その掴んだ腕を引っ張って懐に呼び込み、右手でレブンの頭蓋を鷲掴みにしそのまま吊るし上げる。ジダバタと暴れるがそれくらいじゃ手離すことはない。
「ガキのいたずらにしちゃやりすぎだな。ちょっとプッツンきたぐらいで人殺してちゃあ世話ないぜ。何より電気を人殺しの道具にするのはいただけねー。」
「くそっ、うるせー!いいから放しやがれ!!」
「ん?待てよ?お前、親父に引き取られたんだよな。」
あることに思い至った俺は上に着た服を無理やりめくりあげる。やっぱりない。帯電器官がないのだ。操電師(ブライター)は電気を扱うために帯電器官というものを体に埋め込む。あくまで電気を蓄えるだけで電気の増幅・生成ができない、なにより点検しなければならない都合上表出化している。つまり目視できないということは帯電器官をその身に宿していないということだ。
「お前、俺と同類、か。」
「は?」
「まあいい、細かい事情はもう一人のお前に聞く。」
俺がやろうとしたことがわかったのか、親父が俺を止めようとする声が聞こえるが敢えて無視して無理やり実行する。右手からレブンの頭に直接電気を流し、レブンの意識を奪う。
次の瞬間レブンの中の別人格が入れ替わるように出てくる。それと同時にレブンの体を覆うように全身から電気が迸り、それが鬼のフォルムを象る。それと同時に俺の手から離れこちらをけん制する姿勢でこちらに向く。
これの同類が俺にも宿っている。そのおかげというべきか、こいつらのような意志を持った雷那(いずな)をその身に宿した者は帯電器官を体に埋め込まずとも操電師(ブライター)になることができる。
『俺を起こしたのはてめぇか。』
「ああ。お前に聞きたいことがあってな。お前の宿主、
『はん、それがどうした。こいつは世界を嫌悪している。だからその発散方法を教えてやっただけだ。』
「お前が、お前たち雷那(いずな)がどういう目的で動いているのか、なぜ宿敵である人間に憑りつく者が存在するのか、予想はつくが興味はない。だが、未来ある子供を玩具のように自分の好きなように歪めるのなら、俺がその存在を滅ぼしてやる。俺はそのために雷那(いずな)の力を使うと決めてあるんだ。」
『貴様、まさか。』
「さて、とりあえず今すぐ知りたいことは知れた。今はもう眠れ。」
そういってレブンの、正確にはレブンに宿る雷那(いずな)の前に飛び出す。そこに反射的に拳を突き出してくるがそんな単調な攻撃に当たるわけもなくそれを納刀したままの刀で上へと弾く。そしてその突き上げた刀を手元まで引いて戻す。
「雷覇納刀・
引いた刀の先が地を削りながら弧を描くように振り上げる。もし納刀されていなければ腹から真っ二つにしていたであろう一撃。刀の切っ先がレブンの鳩尾を捉え、その場に蹲らせる。しかし意識を奪うまではいかなかったようでふらふらながらも立ち上がってくる。
「へえ、まだ立ち上がれるか。どうやら目算が甘かったらしい。」
『くそが。人間ごときが我が物顔で俺たちの力を使いやがって。何より雷那(いずな)が人間にこき使われてんじゃねーよ。』
「ん?俺に宿る雷那(いずな)がおとなしいのが気になるか?なに単純な話だ。俺が雷那(いずな)を屈服させた。」
『人間ごときがそんなことできるわけ。』
レブンに宿る雷那(いずな)が信じ切れていないようだがわざわざ信じさせる必要はない。喋っている途中だが無視して背後に回りとどめを刺す。
「雷覇納刀・落雷」
電気を纏った刀身を鞘に収まったまま頭蓋に打ち付けることで強引に意識を奪ったのだった。
意識を失ったレブンを担ぎ上げると一連の顛末を見ていた親父が話しかけてくる。
「ったく簡単に事情を知りたいからってさらっと呼び起こすんじゃねーよ。うすうすそうなる気がしてたけどよ。」
「悪いな親父。これが一番早いと思ってな。とにかくこいつは借り受けるぜ。こいつは親父のとこより俺んとこにいたほうが学べることが多そうだ。」
そういって親父とはその場で別れ、自分の隊員たちの元へと戻るのだった。
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