60. 木星エッチ
「そうでしたね。あ、えっと、どこまで話してましたっけ?」
「吾輩が『勿論だとも。何を書けば好いのだ? さあ云え、早く云え!』と云って、お前が『まあまあ、そう慌てなくても』と云った処だ」
『勿論だとも。何を書けば好いのだ? さあ云え、早く云え!』
『まあまあ、そう慌てなくても』
『こら谷沢、勿体ぶるでない!』
『はいはい、わかりましたよぉ。実はですねえ、今度俺のとこから男性向け週刊誌で、木星エッチてのを出すんですけど、それになんでもいいですから書いてもらいたいんですよ、連載小説なんかを』
『連載か』
『はい、一応全十二回の予定で、各回原稿用紙二十五枚でお願いしたいんです』
『ふむ。書いてやろう』
『二十五枚で十万でいいですか』
『構わぬ』
『決まりですね。まあ一枚くらいの増減はいいんですけど、その枚数と締め切りの方と、ちゃんとお願いしますよ先生』
『承知承知。ふぉふぉふぉ』
先生の嬉しそうな顔が今でもはっきり目に浮かぶよ。
「それで先生の『多人駁論』が始まることになったんですよね」
「ふむ」
であのときだったんだよな。先生のあの短編小説を読ませてもらったのは。
『先生、形だけこれ契約書ですからお願いします』
『そうかそうか。それで谷沢、吾輩の新作短編があるのだがなあ』
『えっ短編ですか』
『そうだ。読むか』
『あはい。
『ふむ。これだ。しっかりと読め』
落花傘先生が学園ものを書かれるのは珍しかった。
それはなんとも変な内容だったけど、その短編がきっかけでカラコも小説を書くようになったんだよなあ。何かの縁ってやつかな。
で、この十日後に初回分の原稿取りに行ったら、できてたのはたった八枚だったんだよな。もうあちゃーって感じだったよ。
「あんときは俺どうしようかって思いましたよ先生」
「はははは、そんな事もあったなあ」
「笑いごとじゃないですよ。まあ今だから笑えますけど。わははは」
「はははは」
いやあ、なんかまるで昨日のことのようだなあ。
「それであの新作短編でなんとかスペース埋まったんでしたよね」
「そうであったな。だがあれは最初からその積りで合計二十五枚となる様にしておったのだ」
「またまたー、先生そんな適当なことばっかり言うんだからぁ」
「ふぉふぉふぉ」
死んでも相変わらずだな先生は。
「まあそれでもなんとか創刊までこぎ着けましたからねえ」
「処で谷沢、その木星エッチは、最近売れ行きの方はどうなのだ?」
「それがそのう、実はこの話が掲載される号で最後になってしまうんです」
「何だと! 本当なのか!?」
「はい、売れてなくて……」
「そうか、それは残念だな」
「はい残念です」
☆ ☆ ☆
◆お知らせ◆
本誌『木星エッチ』は、今週の第16号をもちまして、休刊とさせていただくことになりました。四か月間足らずの短い期間ではございましたが、読者の皆様には格別のご愛顧を賜りましたこと、全社一同心より感謝いたしております。
なお、休刊の期間につきましては、今のところ未定でございます。
皆様さようなら、またいつか誌上でお会いできる日まで…………。
☆ ☆ ☆
【厨二書房からのお願い】
週刊誌『木星エッチ』のバックナンバーあります!
2024/11/07 創刊号 多人駁論 プロローグ「尻拭き神様」
2024/11/14 第2号 多人駁論 一章「便所文庫創刊」
2024/11/21 第3号 多人駁論 二章「奥様は元魔法少女」
2024/11/28 第4号 多人駁論 三章「奥様はラノベ作家」
2024/12/05 第5号 多人駁論 四章「ゴマヤの初恋」
2024/12/12 第6号 多人駁論 五章「キノコもの申す」
2024/12/19 第7号 多人駁論 六章「シマの御主人様」
2024/12/26 第8号 多人駁論 七章「ナラオの日常」
2025/01/09 第9号 多人駁論 八章「ワラビでございまーす」
2025/01/16 第10号 多人駁論 九章「なんと豪華四本立て」
2025/01/23 第11号 多人駁論 十章「霧介の溜息」
2025/01/30 第12号 多人駁論 エピローグ「エンドロール」
2025/02/06 第13号 ラノベ新連載「嗅がせてあげるねっ!」
2025/02/13 第14号 多人駁論2 2起「追悼・落花傘先生」
2025/02/20 第15号 多人駁論2 2承「富籤文庫創刊」
2025/02/27 第16号 多人駁論2 2転「追懐・落花傘先生」
※各号とも在庫は山のようにあります。一冊から送料無料。全号お求め頂いたお客様には、先着一万名様に漏れなく「特製バインダー」を進呈。この機会を逃さず、是非とも全号お買い求めになり、不人気連載小説「多人駁論」「多人駁論2」を一気読みして下さい。
多人駁論【たじんばくろん】 紅灯空呼 @a137156085
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