59. 厨二書房
――どうかしら?
――タイトルは?
――落花傘先生との出会い
――まんまだな。う~ん
俺が今まで読んでいたのは、カラコが書いてくれている「多人駁論2」の連載第三回目の原稿だ。まだ途中までだけどね。
――ダメかしら?
――あいやそうじゃなくて、冥王星ネタをもう使うのかって思ってね
――あらそのことね。冥王星ネタは忘れた頃にまた使えるでしょ
――ああそれもそうか。わははは
「こら谷沢。何をぶつぶつ抜かしておる」
「あいえ、ちょっとカラコと打ち合わせです。あでももう済みました」
「ふむ。それでは後半だな。後半行ってみよう」
「はい先生。えんやこら」
「それは開幕だ」
「や……でしたね」
そうそう後半後半。続き続き。
『それで出版社の名前は決めたのか?』
『あいえ、まだですが』
『ふむ。
『へ!? あ……その』
『駄目か? それとも他に何か候補を考えておるのか?』
『ああはいはい……いくつか』
『例えばどの様な物だ』
『えっと
もちろんこんなのは口から出任せだった。俺ちょうどその頃、『厨二病でも脱サラしたい!』とか言う本読んでたから、思いつきで言ってしまったんだよなあ。
『はて、それはどの様な意味なのだ?』
『ち、中二病ってあるでしょ。俺、ガキみたいに夢追っかけて、脱サラして社長になろうとして、わは、ははは』
『そんな病気なのか、お前は』
『はいはいはい、俺もう中二全開ですから。あでも、せっかく先生にいい名前考えてもらったのに済みませんです』
『まあ好い。候補があるならそれにすれば好い』
『はい。ふぅ~』
『だが、鳶鷹書房もなかなか好いと思うがなあ』
『そ、そうですよね……ですがぁ、あまりそんな高尚なのだと、ほら最近の若い子たちにはちょっと、はは、わはは』
『それもそうだ。ふぉふぉふぉ』
こうして俺の会社の名前が即興で真っ先に決まってしまったんだよ。まだ他のことは何一つ決まってなかったのに。
「まあ鳶鷹書房も悪くはなかったんだけどね。ちょっと格好いいし。わははは」
「ふむ。そうであろうて。今から社名変更してはどうだ谷沢」
「はあぁ、ってえええっ――っ! 先生なんでいるんすか? えっええぇもしかして幽霊!?」
えっとこう言う場合は、お尻つねるんだっけ――むぎゅうって、痛ぇー!
「こら谷沢、それは先程やったであろう。同じ様な反動的表現ばかりだと、売れないお笑い芸人と同じだ。品格大暴落だ。再びラーメン危機を引き起こすぞ。それに吾輩を幽霊扱いにするとは無礼千万、幽霊会社資本金一千万円――その様な物は存在せぬのであるからなあ」
「あのう、でもその幽霊会社資本金一千万円てのもさっきやりましたよね? あとラーメン危機じゃなくて、リーマン危機ですよね?」
「はて、そうであったか?」
「やっぱり死んでもボケたままかあ」
「冗談冗談♪ 今のはぼけた振りをすると云うぼけなのだ。ふぉふぉふぉ」
「はあ?」
そんなボケいらないっすから!
て言うか、売れないお笑い芸人未満ですよ。
「ふむ。処で谷沢、お前の会社が主催した吾輩の告別式はなかなか好かったな」
「そうですか。あでもどうして知ってるんですか?」
「冥王星の公共放送・MHKで放送されておったのだ。地球からの生中継でな。それを吾輩はテレビにかじり付いて見ておった。それで魔女っ
「へえ冥王星まで電波届いてるんですね。凄いですねえ」
「勿論だとも。電波は無敵だ。それとお前の厨二書房もなかなかの会社だ」
「そうですね。わははは」
まあそんなこんなで厨二書房を作ってからもいろいろあって、あっと言う間に三年が過ぎたんだなあ。
で、去年の十月のことだ。
『落花傘先生こんにちはー、ご無沙汰してます』
『ふむ。谷沢か、久しぶりだな。それで今日は何の用だ。執筆依頼か?』
『はい、実はそうなんです』
『何だと! 本当なのか!?』
『はい、すぐ書いてもらえる人が見つからなくて。それでお願いできますか?』
『勿論だとも。何を書けば好いのだ? さあ云え、早く云え!』
『まあまあ、そう慌てなくても』
あんとき先生の目が血走ってたんだよな。俺恐怖すら感じちゃってたよ。
「先生、かなり必死でしたよね。わははは」
「余計な事抜かすな。その時は吾輩にとって二年ぶりの執筆依頼であったのだ」
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