第17話
荒川区荒川河川敷。そこには一人のヴァリアンがいた。
明るい狐色のロングヘアーを、一括りにする切れ長の瞳の女性。彼女は木の枝に繋がれた餌のついていない糸を川に垂らしていた。
彼女こそが、ヴィランであるバンジェリンだ。獣化はしていない。
「ヴァリアヴァロン様は何を考えてんでさぁ。敵を育ててなんになるんでぇ」
彼女は一人ぼやく。上司の考えが分からない。待機命令の中、散歩がてら人間の真似事。
そんな時だった。彼女の背後に現れるヒーローの影。
「……ちっ、そっちから来るのかよ」
バンジェリンは立ち上がる。背後の土手の上に五人のヒーローが立っていた。
それと同時に流れる爆発音を伴った登場曲。
「これが、ジャポンのやり方なんだな」
その曲に苦い顔をしながら、バンジェリンは律儀に待つ。
待たずに攻め込んで、再びヴァリアヴァロン様に怒られるわけにもいかない。
すると、五人組の中央から一人の男が飛び出す。全身真っ赤の男。
「敵を正義の名のもとに、血塗れにする赤き流星!『撲殺戦隊オウダレッド』!」
その左の男がひとつ前に出る。全身真っ青の男。
「世界の悪よ、正義に怯えろ!恐怖に染める青き天竜『撲殺戦隊オウダブルー』!」
赤い男のその右。全身桃色の少女が飛び出す。
「かち割れ飛び出せ桃色臓器!謝ったってぶち殺す『撲殺戦隊オウダピンク』!」
一番左端から女性。全身緑に身を包む。
「今こそ土に還る時。深緑の猛威が芽を息吹く『撲殺戦隊オウダグリーン』!」
一番右から男。全身黒の男。
「深淵の闇へと堕ちろ。滅殺する事こそ正義なり『撲殺戦隊オウダブラック』!」
各々の色に染まったヒーローはポーズを取った。
「「「「「正義の名のもとに悪を撲殺する『撲殺戦隊オウダマン』参上!」」」」」
そして、声を合わせる五人のヒーロー。
彼らの共通点はただひとつ。悪を滅する。その事こそが正義だという事。
「……ちっ、ジャポンは変な奴らしかいないのか?まぁいい。私も獣化――」
バンジェリンは律儀に五人の変身を見終えると、自身の顔を掴む。
そして、己の身体を狐の獣へと変えようとしたその時だった。
彼女の頭部に走る鈍痛。視界が一瞬暗転する。
「いぃぃぃぃいってぇ!」
彼女は咄嗟に河川敷を転がり体勢を立て直す。視界の半分が赤に染まる。片目に血が入ってしまったようだった。先ほどの攻撃は一体どこからか?
その疑問は、目の前の人物を見れば一目瞭然だった。
オウダレッドが、血に染まった釘バットを持って、立っていたからだ。
「……何のつもりだてめぇ?」
バンジェリンは憎々しげに問いかける。オウダレッドは応えずに片手をあげた。
すると彼女の右から、鉄パイプを握ったオウダブルーが突撃してくる。その攻撃は横なぎでバンジェリンの頭部を狙った。その攻撃を、バンジェリンは身を屈め躱す。
「――まだです」
すると、左からしゃがんだバンジェリンの足元目がけて、オウダグリーンが木刀を振るう。
「ちっ!卑怯だぞ!」
小さく飛んで躱すバンジェリン。五人組に対して毒を吐く。五人は聞く耳を持たない。
その時、狂気が迫る。宙に浮き身動きが取れないバンジェリン。
そこ目掛けて走るオウダピンク。手には巨大なハンマー。
「いっくよー!オウダハンマァァァァアアア!!」
怒号。そして骨の砕ける音。バンジェリンの身体の至る所が砕ける。
「――がはっ」
宙を舞う悪の存在。重い一撃を受け、受け身も取らずに地面に叩きつけられる。
圧倒的な連携。そして容赦のなさ。
「――よし!」「ナイスだピンク!」「へっへーんどんなもんだい!」
喜びを示す撲殺戦隊。
しかし、ヴァリアンが全身の骨が砕けるだけで、戦闘不能になるはずがない。
ずるりと立ち上がる血塗れの狐。遅まきながら獣化を終えた。
バンジェリンはよろよろと立ち上がる。
「――くっそがぁ!よくもぉ」
毒を吐くだけでも厳しい。
「よし、次のステップだ!生まれた事を後悔させろ!」
しかし撲殺戦隊は手を抜かない。赤、青、桃、緑と連続で攻撃を加える。
反撃をしようとバンジェリンは何度も試みるが、撲殺戦隊の連携によりすべて失敗。
私刑を受け入れるほかなかった。
ニュー・ワールド・オーダー ~プロトタイプ~ アサノ ヒカリ @mi-tsu87
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ニュー・ワールド・オーダー ~プロトタイプ~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます