第3話 高橋一花

アラタは自室から搭乗口へ向かう最中、目標についての情報に目を通していた。

(壊獣ネーム:サイドラン。ランク3の中級だが、7日前にホールから表れた時は東京への上陸を許し、しかも仕留め損なっている。今回は海上での戦闘となることも加えると、決して油断出来る相手ではないな)



―――「こちら1st、20:20。目的地に到着。目標との距離、およそ40。」

 アラタが搭乗したリベリオン1stは、10台ものヘリによる空輸によって無事東京湾に着陸した。そこには筋骨隆々、額に大きなツノを備えた2足歩行の壊獣が立ちふさがり、こちらを強く警戒している。

「了解。1stの全機能仕様を許可する。」

 斎藤アラタとリベリオンのシンクロ開始。加速用ブースター起動。

 1stはサイドランに向かって突撃し、ぐんぐん距離を詰めていく。あっという間にインファイトの間合いに持ち込み、そのまま壊獣に向けて強烈なアッパーカットを繰り出した。うめき声とともに、壊獣の巨体が揺れる。そのまま鋼鉄の拳によるラッシュ攻撃を食らわせ、壊獣の体を海の中に叩き込んだ。大きな水しぶきがあがる。しかし壊獣は海に沈んだまま、中々浮上してこない。

「1st、現状は。」

「こちら1st。目標と会敵中。目標は海の中に潜伏、恐らくまだ死んでいない。」

 海の中に姿を消したサイドランを探すアラタ。その刹那――


「1stの真下より熱反応あり!」


――――グモォォォォ!!!

 突如咆哮とともに1stの真下からサイドランが浮上し、攻撃を仕掛けてきた。

「ぐっっ!」

 サイドランは1stの左腕に尻尾を巻き付け、何度も頭突き攻撃を仕掛けてくる。

ヤツのツノと装甲がぶつかり合う嫌な音が聞こえてきた。

「このままでは装甲を破壊される、、!」

 尻尾に両手の動きを阻害され、反撃に転じることができない。

「1stの耐久値、減少!」

「ヒートブレード、充填開始します! 充電完了40%、、50%、」

 アラタは1stの右腕の下に仕込んである大剣を構え、刀身に熱を貯めていく。

「80%、、90%、、、 はぁっっ!!!」

 刀身が熱を帯びきったその刹那。1st渾身のヒートブレードが右下から振り上げられ、サイドランの尻尾を両断した。

「グモォォ!」

 切断された尻尾は焼け、海の中に沈んでゆく。辺りを焦げ臭い匂いが包む。

「このまま仕掛けます!」

 自由となった両腕で、ヒートブレードを握り上段の構えをとる。そこへ体制を立て直したサイドランが、怒りの形相で突進してきた。

「グモォォォォォォォンン!!」

「せぁっっっっ!!!」

 振り下ろしたその一刀は、突進してきたサイドランの勢いをそのまま切れ味に変換し、その巨体をまっぷたつに割いた。一際大きな水しぶきが辺りを包んだ。




「20:26、目標沈黙。」

 動かなくなった壊獣を横目に、指令室への終了報告を行う。

「了解。まもなく現地に回収班が向かう、1stは直ちに拠点に帰還せよ」

「了解。」

 アラタは加速用ブースターを再度起動し、足早にその場を後にした。


―――――――――



―――東京都練馬区に存在する「拠点」。サラマンダの襲来以降首都機能を失った東京は、壊獣達の出現箇所が東京湾付近に絞られていることを逆手に取り、新たに最終防衛拠点「デイブレイク」を設営した。ここでは壊獣データの分析、開発、リベリオンの出撃場所としての役割を果たしている。


 拠点についたアラタがリベリオンのコックピットを降りると、とたんに激しい頭痛と吐き気、悪寒が彼を襲った。アラタは思わずその場に座りこんだ。

「はぁっ、はぁっ、、」

 リベリオンの操縦はパイロットの脳に強烈な負荷を与える。適正テストに合格したとしてもそれは変わらない。


 しばらく座り込んでいると、そこに1人の男が表れた。30代半ばの銀髪で、髪型をセンター分けにしている眼鏡をかけた男だ。アラタと同じくらい身長が高く、腕には高そうな時計をつけている。


「大丈夫か?アラタ。」

「ええ、問題ありません。月島司令官。」


 月島はデイブレイクの司令官、いわばリーダー的存在である。中々戻ってこないアラタを心配し、様子を見に来たのだった。

 深く息を吸い、アラタはゆっくりと立ち上がった。


「わざわざありがとうございます。」

「いいんだ。医務室に行くついでに、少し話そう。」

 月島はアラタに缶コーヒーを差し出すと、ついてこいと歩き出した。


「今日の戦闘、またヒートブレードを使用したのか?」

「はい。」

「前にも言っただろ、あれは奥の手だ。使用すればパイロットの脳に強烈な負荷を及ぼす。お前も既に知っているはずだ。」

 月島は心配そうな口調で切り出した。

「使わなければ倒せない相手でした。それにここ最近、壊獣全体のレベルがアップしてきているように感じます。僕の身体を心配してくれるのなら、より強力なリベリオンの開発を急がせてください。」

「相変わらずの皮肉屋だな。」

 少しバツが悪そうに呟くと、言葉を続けた。

「医務室で休んだら、その後司令室に来てくれ。紹介したい人物がいるんだ。」

 月島司令が俺にわざわざ紹介したいだなんて、一体何者だろうか。医務室前で別れた後、ベッドの上でぼんやりとそんなことを考えていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。


 数時間経ち、体から倦怠感が抜けるとアラタは月島に言われた通り司令室へと向かった。司令室の扉を開けると、そこには一人の少女が月島と話しているのが見えた。自分と同じ、もしくは少し若いくらいだろうか?美しい黒髪が特徴的な、ショートカットの女の子がこちらを見ている。


「月島さん、もしかしてこの人ですか?」

 その女の子は緑色の瞳でこちらを覗き込み、そう言った。

「アラタ、よく来てくれた。紹介しよう。こちら高橋君だ。今日から君は高橋君の教育係となってもらう。くれぐれも仲良くするようにな。」


一瞬の沈黙 ――

静寂を破ったのはアラタだった。


「、、、え?」

「はじめまして、高橋一花です。イチカって呼んでください。これからよろしくお願いします。」

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REBELLION(リベリオン) ジャムポテト @konod0311

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