経理部の絵里ちゃん

がんざき りゅう

経理部の絵里ちゃん 

 目の前にいる経理部の絵里ちゃんは間違いなく吸血鬼だ。

 尖った二本の八重歯があるし・・・馴染みの定食屋で一緒に昼食をとったとき「ニンニクが入っているのは食べられないんです」と言っていたし・・・残り十分ほどになってしまった昼休み、公園のベンチでこうして俺と一緒に並んで座ったが、どこから出てきたのかよくわからないサファリハットを深くかぶりつつ、露出している肌を見つけては日焼け止めクリームを塗り込む姿・・・かわいい♡。

 いや、そんなことよりも彼女は吸血鬼だ。

 一緒に道を歩いていても、十字架のような十字路を横切る通たびに左右をキョロキョロしているし、毎朝トマトジュース飲んでいるとも言っていた。

 俺は好奇心を押さえきれず本人に訊いてみた。

「絵里ちゃんは、吸血鬼でしょ」

「そうだよ」

 素直に認めたことにちょっとびっくり。

「オリジナルではなくクォーター。でも、安心して今の吸血鬼は血なんて吸わないから」

「えっ、吸わないの」

 ちょっとがっかり、えりちゃんになら吸われてもよかったのにな。

「感染症、恐いでしょ。昔は吸血鬼も感染症でたくさん亡くなったんだって、おじいちゃんが言ってた。それに私、アレルギー持ちで血を吸うと蕁麻疹が出るんだ。だから、血の代わりに・・・」

「トマトジュースってわけか」

「それは都市伝説。普通にご飯食べるだけだよ。血だって必ず吸わないと生きていけない訳でないし。ほら、人間だって納豆食べるじゃん。それと同じ」

 どう同じだかわからなかったが、絵里ちゃんが同じというなら同じなんだろう。

「会社に戻りましょう。公一さん」

 絵里ちゃんが俺の名前を呼んだ。俺はベンチから腰を上げて歩き出す。先を歩いていた絵里ちゃんが笑顔で振り返った。

「この前、家まで送ってくれてありがとう。嬉しかった」

「どういたしまして、俺は絵里ちゃんを自宅まで送るが好きなの。あの夜は満月じゃなかったし」

「それってシャレなの? そうそう、公一さんて実は狼男でしょ」

「うん、クォーターだけどね」

 二人で笑った。楽しかった昼休みのデートもおしまい。

 なんだ、ライバルでもある俺の正体もバレてたか。

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経理部の絵里ちゃん がんざき りゅう @ganzaki-ryu

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