第29話 天地の剣

「今回の異変の解決には俺と、学の2人で充分だろう!!」

腕を組み高らかに宣言する大男神の顔には歴戦の傷が走っていた。

貴神あなたの、名前は....」

「ん? 俺か!」

「俺は経津主神ふつぬしのかみと言う!!」


「気軽にフツとでも呼んでくれ!!」

大きく笑う彼の後方から心地よい風が社に入ってくる。

「おう! 気持ちの良い夜だな!!」

月読命つくよみのみこと殿が罷られたと聞いていたが、夜はしっかりと訪れている!」

「良いことだな!」


柔らかい神気と共に現れたのは天宇受売命あめのうずめのみことだ。

「それは、私が月読命様のお役目をお引き受けしたからです。」

快風は彼女から出ていたようだ。

「そうか! ウズメ殿も大変だろう!!」

彼は彼女をまじまじと見て言う

「それにしても....」

「前に会ったときよりも、露出が派手になっているな!」

ウズメは顔を赤らめ、両手で大きな胸部を隠す。

「なっ....!!」

「舞巫女として、感心する!!」


彼は皆の注目を他所に俺と目を合わせる。

「ところで、学! 俺と、1勝負しないか!」

美しい漆黒の目から飛び出した言葉に仰天する。

「っ! はい!?」

「言葉通りだ! 君の実力を確かめたい!!」



かつて、師匠と鍛錬をした空間で、太刀合わせをすることになった。

「俺の師匠でもある、建御雷神たけみかづちのかみ殿も見られている!」

「お互いに全力で打ち合おう!!」

経津主神と建御雷神は子弟関係であり、俺とは兄弟弟子にあたるようだ。


しかし、彼の発する言葉は体の芯にまで響き渡る太鼓の様な音がする。

安心感を与える様な声に鞘を握る左手が緩む。

そんな俺に、師匠が言葉を発する。

「学、全てをぶつけるのだ。」

「これまで戦い抜いて来た経験、技能、全てを込めて太刀を握るのだ。」

「お前は我が一番手を焼いた弟子なのだからな。」


師匠の言葉に胸が高揚する。

彼を裏切る訳には行かない。

ウズメに抱えられた白玉様も真剣な眼差しで見ている。

畔弖刈あてか日国ひくにの横で胡座をかいて注視している。


「学! 良き太刀合わせにしよう!!」

返事を返そうとした瞬間、彼の神気の気配が変わる。

その場にいた者たち全員が変容に気づく。


流れる神気が俺の顔に傷をつける。

まるで刀傷のような鋭い痛みが走る。


今までの神とも違う異次元の強さだろう。

しかし、勝つ事だけを考えろ。

「地の剣! 閃雷 改!!」

強烈な踏み込みで、遠雷の如し音を伴い急接近する剣技で一気に片を付ける。


経津主神は刀を肩に担いだまま高らかに笑う。

「うむ! 昇華されている!!」

「見事だ!!」

神武しんぶの剣 布都魂ふつだま!!」


構えの動作に入る前に、間合い一歩後に入った。

身体の捻りを利用し、打ち下ろす刀の威力を増大させ、斬りつける。

「はぁっ!!!」


手応えがない。

「いない!?」


「うむ。気迫、技の精度、速度、剣閃は見事!」

「だが、所詮は人の子だな!!」

彼の声が俺が元いた場所から聞こえた。

「え.....」

困惑する俺に彼は指を指し言う。

「地の剣を使っているようでは今後、生き残れないだろう!」

「だが、安心しろ!」

「この敗北から学べる事もある!!」


俺は彼に言う。

「待って下さい!!」

「俺はまだ負けてない!」

刀を構え直し、経津主神ふつぬしのかみを真っ直ぐと見据える。

「神気開.....」

そして、今気づいた。

腹と背中の真逆の2方向が斬られていることを。

時間差で両足の太腿が裂け、体が地面に吸われた。


「俺は君が走り出す瞬間には、至る所を斬っておいた!」

彼は笑いながら言う。

「隙だらけだったのでな!」

「!!!」

つまり、俺が斬りつけたのは、高速で動く前の経津主神の残像だったと言うことだ。

俺が飛び出した瞬間に斬りつけ、余りにも速い速度だった為、身体が傷ついたことを脳が認識していなかった。


視界が黒くなっていく、

何も出来ずに死を待つしかないのか。


脳内に日国の言葉が響く。

「これで、終わりなのですか。」

「ここで、死ぬのですか。」

「元いた時に、帰るのではなかったのですか。」


目を開け、刀を地面に突き立てる。

「終われない....!」

「こんな所で立ち止まれない!!」

時間をかけて立ち上がり、構えを取る。


「おう! 良い気迫だ!!」

「君は此処で立ち止まる人の子ではないだろう!」

「全力で打ち込みに来たまえ!!!」


ォ!!」

身体中から神気が放出される。

経津主神から飛んでくる神気が、俺のそれと相殺される。

「おお!! その構えは!!」

「素晴らしいな!!」

「やはり月読命殿の見立て通りだった!!」


これは月読が迦具土神かぐづちのかみに対して放った最終奥義の構えだ。

閃雷と同様、上半身を捻り両足は地面に根を張る様に大きく開く。

しかし、決定的に違うのは俺の場合、神気全開放中でなければ使えぬ点である。

そして、"神の剣技"まで昇華できていない。


「だけど...やる!!」


「天地の剣 月鳴神つきなりのかみ!!!」





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神結の剣 桜子 さくら @Someiyosino

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