第191話 戦いの後

 父、義重と共に軍を率いる傍ら、義宣の脳裏には先日のやりとりが蘇っていた。


『父上の真意をお聞かせください!』


『……………………』


 沈黙の末、義重が口を開いた。


『木村と徳川、どちらも天下を狙えるだけの力と実力を持つ者だ。

 しかし、徳川は前田に言いがかりをつけ戦を引き起こした。多くの大名が徳川の横暴に見て見ぬふりをする中、木村殿は不利とわかっていながら奴らを助けた。

 ……どちらが義に厚く、信の置ける者かは明白よ。

 ……その木村殿と婚儀を結び、同胞はらからとなれるのだ。願ってもない話よ』


『では……!』


『当家はこれより、木村方にお味方いたす!』






 結城秀康が退却すると、奥州軍で勝鬨が挙げられた。


 夜通しの戦に多くの兵が疲労と寝不足に陥った中、奥州軍の陣に佐竹義重、義宣がやってきた。


「我ら親子一同、木村様にお味方するべく馳せ参じました。……参陣が遅れたこと、どうかお許し頂けますよう……」


 深々と頭を下げる義重と義宣に、清久が顔を上げさせた。


「かの北条や伊達としのぎを削った佐竹殿の参陣……まことに頼もしき限りだ」


「木村様……!」


「参陣が遅れたとはいえ、戦上手で知られた佐竹殿のことだ。すぐに手柄を立ててくれることだろう」


 暗に、遅参を打ち消すくらいの手柄を立てて見せろと言う清久。


「はっ……!」


 ひとまずは許された。そう心の中で安堵する、義重と義宣であった。





 結城軍を蹴散らしたおかげで、関東を守る徳川方の兵は大きく削ることができた。


 とはいえ、徳川領はあまりに広大である。


 本拠地である江戸まではかなりの距離があり、徳川方の城も多い。


 これらを放置したまま江戸に向かっては、後方を脅かされ、兵站が寸断される恐れがある。


 小田原征伐の時と同じく、関東の城を塗りつぶすように制圧していく必要があった。


「秋田殿には唐沢山城の攻略を。津軽殿には忍城の攻略を。松前殿には岩付城を。

 南部殿には小田城の攻略を、それぞれお願いいたす」


「「「はっ!」」」


 奥州の大名たちが頷く。


 この他、兵数の多い蒲生軍には結城領の制圧を。最も兵数の多い佐竹軍には上総と下総の制圧を任せた。


「では、我らは江戸城を目指すとするか……」


 上方からの報告によると、木村家の水軍は江戸湾の入り口まで来たものの、徳川水軍に阻まれ江戸湾に入れていないという。


 まずはどうにか彼らと連絡をとる方法を考えるとしよう。

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