第179話 関ヶ原の戦い 2
関ヶ原に布陣した大坂方は、徳川方に先んじて山地に陣を構えていた。
北の笹尾山に石田三成率いる6000が。
中央の北天満山には木村宗明率いる本隊2万が。
そのすぐ南に位置する南天満山には、小西軍6000、増田軍6000、島津軍2000の他、平塚為広や戸田重政といった大名がついた。
南の松尾山には大谷吉継率いる2000と、松尾山の
対する徳川方は、石田軍と相対する右翼に黒田長政、福島正則、加藤嘉明が。
木村軍と小西、増田軍の位置する中央には筒井定次、池田輝政、田中吉政が。
松尾山に陣取る大谷軍に対しては蜂須賀至鎮、生駒一正、金森長近が配置された。
豊臣恩顧の大名の背後には、第二陣として井伊直政や松平忠吉といった徳川軍が陣を構えている。
大坂方4万6000に対し、徳川方が7万もの軍を率いていた。
秀忠軍不在の中、決戦の時はこく一刻と迫るのだった。
早朝。両者の睨み合いが続く中、福島軍が動き出した。
我先に三成の首を討たんと、勇猛果敢に突撃を仕掛ける。
それを見て、黒田長政、加藤嘉明の軍も攻撃を開始した。
徳川方の右翼で戦闘が始まったこともあり、それに引っ張られるように中央、左翼でも戦闘が始まった。
石田軍の一部隊を率いる島左近は突撃を仕掛けてくる福島軍に対し、あらかじめ設置していた柵と堀を駆使して勢いを殺した。
そうして足が止まったところで、構えていた鉄砲隊が福島軍に鉛玉を浴びせる。
バンバンバン。
乾いた音と共に、先頭の福島勢が崩れ落ちた。
彼らを踏みつけるようにして、第二、第三陣が竹の束をその場に立てかけ、鉛玉の雨から見を守る傘にした。
島左近は冷静に戦場を見回し、こちらの守りが破れていないことを確認すると、ゆっくりと、しかし着実に相手を消耗させていく。
詰将棋のように堅実に立ち回る島左近の元に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「三成ぃぃぃぃ〜〜〜〜!!!!」
「この声は……」
声のした方角を見ると福島正則が鬼の形相でこちらを睨んでいた。
鉄砲の間合いからは離れているが、隙あらばこちらを討ち取ろうというのが見て取れる。
福島正則は……いや、武断派が抱く三成への憎しみは、それほどまでに根深いというのか……。
序盤は大坂方優位に戦いが進んだ。
中央では木村や小西が奮闘し、南では大谷吉継が麾下の軍に指示を出しており、兵数で劣っているわりによく持ち堪えている。
最も激しく戦っている北でも、福島正則、黒田長政、加藤嘉明の猛攻を石田三成は辛抱強く防いでいるようであった。
どの軍も、戦線が膠着している。
あれを使うのなら、今しかない。
家康がほくそ笑むと、馬廻たち指示を出した。
密かに第二陣である井伊直政軍まで大筒を運び出していく。
「こちらの用意はいつでもできております」
井伊直政の言葉に家康が頷くと、大坂方目掛けて並べられた大筒に弾が込められていく。
「撃て!」
家康の号令と共に、大坂方目掛けて大筒が火を吹いた。
戦場の空気を切り裂き、巨大な鉛の球体が飛来する。
弧を描くように飛んだそれは、やがて木村軍の本隊に到達した。
轟音と共に、辺りが一瞬静まりかえる。
「なっ、何が起きた!」
音のした方を見に行くと、大地が抉れていた。
その中心には巨大な金属の塊が熱を持っており、白煙を上げながらその破壊力を知らしめていた。
まさか、これが撃ちだされたというのか……。
宗明が戦慄する中、第二波が小西軍に直撃した。
「家康は、大筒を持ってきたというのか……」
大筒は宗明も南蛮遠征の際に使ったことがあった。
だが、あれは南の島で異人が支配する地を攻略する際に、海上から港町目掛けて使ったものだ。
船に設置するならまだしも、それを陸に持ち込んで野戦に使うとは……。
考えている間にも、大筒を撃ち込まれたのか小西軍、増田軍、大谷軍から白煙が立ち昇っていた。
全軍から、続々と被害を知らせる報告がもたらされていく。
そのどれもが、圧倒的な火力を前に混乱するものや、雑兵たちの戦意喪失を知らせるものであった。
「あんなものを相手に、いったいどうやって勝てばよいというのだ……」
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