第178話 関ヶ原の戦い 1

 会津征伐のために軍を集めた家康は、一度宇都宮に軍を集結させていた。


 しかし、上方で反徳川の者が軍を興しており、すでに伏見まで落としたとあっては無視できない。


 そして、奴らの拠点である大坂には秀頼がおり、高山国を出た木村軍の上陸する場所でもある。


 大坂を抑えることができれば秀頼を神輿に担ぎ上げられるだけでなく、何も知らずにのこのことやってきた木村軍に一泡吹かせることができる。


 家康は集まった諸大名を見回し声を張り上げた。


「すみやかに軍を反転させ、木村軍を打ち破るぞ!」


「はっ!」


 万全を期して、徳川軍は二手に別れて大坂を目指すことにした。


 家康率いる本隊は東海道を。秀忠率いる別働隊は中山道を進むことにした。


 馬に跨り先を急ぐ家康に、徳川軍で部隊を預かる井伊直政が並走する。


「しかし殿、一つ気になることが」


「どうした」


「甲斐に篭った木村重茲はいかがしましょう。木村重茲は、腐っても20万石の大名……。放っておけば、当家の領地を脅かすやも……」


「そのために山内一豊と堀尾吉晴を領地に残した。駿河、遠江を領地に持つ奴らなら、重茲の相手には十分であろう」


 そうして順調に東海道を進んだ家康軍は、木村方に与する織田秀信の居城、岐阜城の攻略に入るのだった。




 大坂を出て近江、佐和山城に入った大坂方の元に、家康率いる徳川方の様子が知らされた。


「岐阜城を攻めているだと!? もうそこまで来ているとは……」


 驚愕する宗明に、三成も焦りを感じているらしく、わずかに声がうわずっていた。


「どうするのだ。岐阜城には我らの味方である織田秀信殿がいるのだぞ」


 僅かに迷い、宗明が決意を滲ませて頷いた。


「救援に向かう。美濃を抑えられては、東国と……奥州との連絡も難しくなろう」


 佐和山城を出た大坂木村軍は、美濃に向け進軍を開始した。


 美濃の西に位置する大垣城に入ると、岐阜城陥落の報せを受けた。


「もう落とされただと!?」


 驚愕する宗明に、荒川政光が口を開いた。


「岐阜城といえば、かつての信長公の居城……。織田の旧臣である池田輝政らがついてますゆえ、城のつくりに精通しているのでしょう」


 難攻不落とうたわれた岐阜城が、こうも容易く落とされるとは……。


 かくなる上は、美濃は諦めるより他にないかもしれない。


 大垣城を出ると、徳川方を迎え撃つべく、交通の要衝である関ヶ原に陣を構えた。


 関ヶ原に点在する山に陣を敷き、柵を立て、堀を掘る。


 そうして陣地の構築を進めていると、上方から使者がやってきた。


「大変です!」


「どうした」


「大津城の京極高次が徳川方に寝返りました!」


「なんだと!?」


 京極高次といえば、正室の初が秀忠の正室である江と姉妹であり、徳川と少なからず縁のある者である。


「徳川の調略に乗せられたか……」


 大津城が敵方の城となったということは、京や大坂までの街道を抑えられたに等しい。


 放っておいては大坂との連絡も断たれ、兵糧の補給もままならなくなる。


 また、城から打って出た京極高次に背後を突かれる恐れもある。


 最悪の場合、西進する家康と挟撃される恐れもあると考えられた。


 すぐさま、陣地を造っていた荒川政光を呼びつける。


「政光、立花殿と共に、大津城を落としてきてくれ」


「はっ」


 荒川政光に木村軍5000を預け、政光と共に戦上手の立花統虎を送り込んだ。


 これだけ兵を割いたのだ。


 できるだけ早く城を落としてくれ。


 そう願いながら、宗明は彼らを送り出すのだった。

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