第171話 伏見城の戦い

 大坂城を出た大坂軍2万が伏見城に到着すると、すぐに攻城戦が始まった。


 当初は秀次に跡を継がせた秀吉が隠居をするために建てた城であったが、秀吉の死後は家康が占領しており、事実上、家康の京における拠点の一つとなっていた。


「家康はほとんどの軍を会津に連れて行ったらしい……敵の兵数はそれほど多くないな」


「では、時間もないことだし、力攻めで落とすか」


 石田三成、長束正家、前田玄以が北から。

 浅野長政、小西行長、立花統虎は東から。

 増田長盛、島津義弘、大谷吉継は西から。

 南は木村宗明が受け持ち、残る軍で城を包囲をすることにした。


 伏見城の四方から一斉に攻めかかる。


 鉛球の雨を惜しみなく注ぎ、一日、二日と攻めかかるも、城は一向に落ちる気配を見せない。


「木村殿……」


 三成もこれだけ時間がかかると思っていなかったのか、どこか焦っているように見えた。


 どうしたものか……。宗明が考え込む中、荒川政光が口を挟んだ。


「若……この戦、我らに任せては頂けませぬか?」


「なにか考えがあるのか?」






 大坂方の攻撃をやり過ごし、鳥居元忠はふんと鼻を鳴らした。


「天下に名高い木村軍と聞いたが、口ほどにもないな。こんな小勢を相手に苦戦するとは……」


 元忠の軽口に、家臣たちが違いないといった様子で笑った。


 そんな中、雑兵の一人が慌てた様子で陣にやってきた。


「た、大変にございます! 城中の井戸という井戸が枯渇しました!」


「なっ、なんじゃと!」






 伏見城の改築に携わった川村重吉、荒川政光らの手引きにより工事が始まると、わずか10日たらずで井戸に横穴を開けることに成功した。


 木村家が誇る奉行衆の見事な手腕に、宗明が感心した様子で頷く。


「なるほど……。井戸の水を枯渇させることで干殺しを行なうとは……。太閤殿下もそうだが、干殺しとは、かくも容易く行えるものなのか?」


「まさか! 井戸を枯らし、城の食料が尽きるまで待つのですから、相応の用意と時間がかかります」


 荒川政光が誇らしげに続ける。


「ですが、我らは伏見城の縄張りを知り尽くしております。どこに食糧庫があり、どこに井戸があるのか、すべて……。

 それゆえ、闇雲に穴を掘るのではなく、城の縄張りを見て井戸に向かって横穴を開ければ、容易く水を枯らすことができるというわけにございます」


「なるほど……」


 その後、井戸が枯れ心身ともに参ったまま戦に出向いた徳川軍は、大坂方の軍によって容易く蹴散らされた。


 本丸まで侵攻すると、死を覚悟したのか、鳥居元忠ら徳川方の名のある将が姿を現した。


 鳥居元忠をはじめとする徳川方の武将が死兵となって向かってくる中、木村軍が鉄砲の集中砲火を浴びせると、鳥居元忠は鉛球の海に沈んだ。


 こうして、天下分け目の戦いの緒戦である伏見城の戦いは、大坂方の勝利で幕を下ろしたのだった。

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