第170話 台北→島津領 薩摩

 台北に到着すると、吉清は高山国で徴兵を始めた。


 領民や倭寇、海外で活躍する日本人傭兵たちが集まると、総勢で5万もの兵となった。


 かなり無茶な徴兵をしたが、こちらも天下分け目の大戦おおいくさに挑もうというのだ。


 加減し過ぎて負けるくらいなら、多少無茶をしてでも兵を集めた方がいいというものだ。


 同じく台南で兵を集めた亀井茲矩と共に高山国を出ると、補給のために島津領薩摩に立ち寄った。


 あらかじめ手配していた水や食料の補給をしつつ、義久から九州の状況を説明された。


「こちらはなんとかなっちょるが、北は酷かもんじゃ。毛利や小早川が暴れ回っちょる。かろうじて鍋島殿が抑えちょるが、どれだけもつか……」


 毛利、小早川が領地を持つ北九州では、木村の大名は不利な立場に立たされているらしい。


 また、木村方の大名であり、鎮西一の剛勇とまでうたわれた立花統虎の不在も大きかった。


 立花家臣は統虎不在の中でも奮闘しているものの、ついには柳川城の目前まで小早川軍が迫っているらしい。


 立花領が陥落すれば、鍋島領は南からも脅威が迫ることとなる。


 それを防ぐべく、鍋島に同調する松浦、有馬が援軍を送り込むも、じりじりと追い詰められているらしい。


 また、豊後の木村方大名である宇都宮国綱らも、黒田如水によって攻められ、身動きが取れないのだという。


「加勢に行こうにも、肥後に残った加藤清正が邪魔をすっおかげで、北へは進めん」


 島津義久が憎々しげに目を細める。


「加藤清正め……太閤殿下に認められただけのこちゃある。……まあ、島津ん敵じゃなかがな」


 頼もしい。あの島津が付いているというだけで、負ける気がしないというものである。


 感謝の言葉を口にするべく、吉清が深々と頭を下げた。


「島津殿が味方について下さり、心強い限りじゃ」


「なんの……そん代わり、恩賞は期待しちょっでな」


「……もちろんです」


 戦が終わったら、どれだけ恩賞をせがまれるのだろうか。


 吉清は一人背筋を寒くさせるのだった。






 大坂では、徳川方についた大名たちの妻子をを人質にとり、あるいは屋敷を包囲して軟禁することにした。


 無理やり連れて行かれる徳川方の妻子を眺め、宗明はポツリとこぼした。


「このような策を使っては、卑怯とそしりを受けても文句は言えぬな……」


「戦は勝ってこそにございます。……勝てばいくらでも弁明できましょうが、負けては弁解の機会すら与えられませぬ」


 小田原征伐で北条家が滅亡した時のことを思い出したのか、荒川政光は複雑そうな顔をした。


「……ともかく、義父上が高山国から軍を引き連れ戻られるまでの間、我らは大坂を守っていればよいのだ。そのために、今は出来ることをしよう」


 決意を新たに、宗明は大坂城の一角を占領すると、木村方についた大名へ恩賞や木村方につく利点の記した文を送る。


 未だに全国には日和見をしている大名は少なくない。


 そうした者を味方につけておけば、後々役に立つかもしれない。


 宗明が筆を執る中、三成をはじめとする奉行衆がやってきた。


 三成らの話を聞き、宗明が驚愕した。


「伏見城を攻めるだと!?」


 三成ら奉行が頭を下げる。


 彼らの決心は固いらしい。


「どうしてまた……」


「大坂城を占拠した今、上方に残る徳川方の拠点は京の徳川屋敷に伏見城を残すのみとなりました。ここを潰せば、会津へ攻め込まんとする徳川と上方との連絡は多いに遅れることとなりましょう」


 三成の言わんとしていることはわかるが、宗明が命じられたことは、吉清が大坂に戻るまでの間、大坂と秀頼を守ることである。


 現状、積極的に徳川と戦をしようなどという気はさらさらなかった。


 ましてや、伏見を攻めては大坂を手薄にしてしまう。


 宗明は助けを求めるように、その場に居合わせた立花統虎に声をかけた。


「…………立花殿はどう思う」


「高山国から大坂までは、少なくとも一月はかかりましょう。木村様が来られるまでの間、ろくに戦もせずにいたずらに軍を遊ばせていては、兵たちの士気に関わります」


 立花統虎までもが伏見攻め派と知り、宗明は押し黙った。


 ……やはり、吉清が命じなければ、宗明の重い腰は上がらないというのか。


 誰もが心の中での落胆する中、三成が最後通牒のように確認をした。


「…………それでは、伏見城を攻めても構いませんな?」


「……………………」


 沈黙を肯定と捉えた三成が頭を下げて部屋を出ようとすると、宗明が呼び止めた。


「待たれよ」


「…………なにか?」


「伏見城は、当家が大老より改築を命じられた城だ。工事を差配していた者なら、城の内部に詳しいだろう。

 その者ら連れて参るゆえ、こちらの支度が整うまで待ってくれ」


 思いもよらない申し出に、その場にいた大名たちの顔が綻んだ。


 普段は弱腰とはいえ、一度やると決めたらなんと頼もしいことか。


 三成らは顔を見合わせると、木村軍の用意が整うのを待つのだった。


 そうして、天下分け目の戦いの緒戦である伏見城の戦いが幕を開けるのだった。

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