第152話 和睦
台北に入った吉清は、曽根昌世の築いた台北城に入城した。
集まる重臣たちを前に、軍議を進めていく。
台北奉行の曽根昌世が口を開けた。
「徳川家の本拠地である江戸を襲撃され、徳川家臣の木村への反感は大きなものとなりました……。
このまま引き下がっては、家臣たちの不満も大きくなる上、徳川様の面目が潰れることは必定……。
徳川様には、高山国へ攻め込む以外に選択肢は残されておりませぬ……」
吉清が「ククク」と笑った。
「このまま強引に高山国へ攻めてくるか、はたまた時をかけて準備をして攻めてくるか……。どちらにせよ、見物よの〜」
水軍力に自信のある木村家では、徳川水軍など物の数ではなかった。
家康が高山国に攻め込まねばならない時点で、勝ちは見えている。
誰もがそう思う中、小姓の浅香庄次郎が息を切らして駆け込んできた。
「殿! 一大事にございます!」
「どうした」
「それが……徳川様が和睦を持ちかけてございます!」
「なに!?」
家康が全面的に非を認め、秀頼を通じて木村家に謝罪したことで、吉清としても矛を収めざるを得なくなった。
最終的に、徳川領で木村の者が自由に商売するのを許可することを条件に、両者は和睦に合意するのだった。
軍を解散させた家康が大坂に戻り、吉清が護衛を伴って大坂に戻ると、正式に木村家と徳川家の間で和睦が結ばれるのだった。
木村征伐が未遂に終わると、吉清は戦後処理に奔走した。
まずは、吉清の手放した石巻30万石の処遇だった。
吉清の働きかけで、大崎の旧領には大崎義隆を復帰させた。
大崎義隆の妻子は木村家で預かっているため、大崎家は事実上木村家の傀儡となっている。
また、徳川と内通していた地侍の多くを大崎家に組み込むことで、木村家中から徳川派の一掃に成功した。
石巻を含めた旧葛西領は清久が代官となり、豊臣家のために年貢の徴収や管理を代行することで落ち着いた。
清久が長年統治していた石巻に戻る代わりに、北庄は宗明に統治させ、加賀の前田家と共に北陸と畿内の備えとした。
奥州の領地を失ったことで、吉清は奥州の太守としての地位を失う形となったが、加賀征伐に続き木村征伐まで凌いだ吉清の手腕は高く評価されていた。
大坂での評判を聞き、石巻から退いた小幡信貞や荒川政光が嬉しそうに頬を綻ばせた。
「今や殿の名声はうなぎ登りじゃ。巷では、五大老に殿を加えた六大老などと呼ぶ者もおるそうじゃ」
「なんと……それはめでたきことですなぁ!」
(まあ、儂が喧伝したのじゃがな)
今回の木村征伐は、家康が引き下がったことで痛み分けに近い形で幕を降ろしてしまった。
吉清としては、今回で家康を倒すつもりで乾坤一擲の勝負に出ていただけに、江戸を焼かれてまで和睦を結び、最小限の被害に留めた家康の判断には驚かされた。
ただ、吉清目線で引き分けだったとしても、他の者が納得しない。
30万石もの領地をみすみす手放して、何の成果も得られないのでは、木村家の家臣とて黙ってはいない。
また、他の大名たちにも吉清が負けたなどと、口が裂けても言うことはできない。
ここから先は、どちらが強く、どちらがよりハッタリを効かせられるかの戦いなのだ。
前田利家が死に、多くの大名がより強い方になびこうとする昨今、徳川と表立って敵対し、対等に渡り合っている木村家には注目が集まっている。
そんな中、自ら評判を落としては味方集めも難しくなってしまう。
そのため、吉清は自分の勝利を大々的に喧伝するため、木村家中で戦勝の宴を開き、他の大名たちにも「君たちのおかげで勝てた」と礼を言い、京や大坂の町人たちにも木村が勝ったと噂を広めたのだ。
「…………お主らも、当家が勝ったと思わせるような噂を広めておけ」
「はっ!」
吉清の裏工作の甲斐もあって、諸大名たちの間では木村吉清に接近する大名が数を増やしていくのだった。
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