第15話 またまた木村領

 論功行賞を終えたとはいえ、まだまだやるべきことは多い。その中でも、吉清と清久を悩ませていたのは検地と刀狩りだった。


 どちらも領民の反対が強く、史実でも葛西大崎一揆の引き金となり、肥後国人一揆の原因にも繋がった。


 無理矢理行った結果、領内の治安が悪くなり、せっかく防いだ一揆が起きてしまっては、今までの苦労が水泡に帰してしまう。


 だからといって、やらないという選択肢はない。


 木村家が大名として近代化を果たすためには避けては通れぬ道で、遅かれ早かれ取り組まねばならない課題であった。


 これらを安全に終わらせることが、現状木村家の目標であり、領内に残された清久の頭を悩ます種ではあるのだが。


「うーむ……」


 寺池城で政務を務める傍ら、清久の元へ文が届いた。


 曰く、


『すまん、まだしばらく領地には戻れない。

 いま、奥州再仕置軍の行程を差配する仕事をしている。

 夏頃までには帰るから、直英に街道の敷設と港の建設を急ぐように言っておいて。

 それと、清久は刀狩りやっといて。予算も渡しておくね』


 とのことである。


「父上から、刀狩りをするように申しつけられた」


 清久がポツリとつぶやくと、側に控えていた荒川政光が答えた。


「ご心配なく。いつ始めてもいいよう、各村々にある武具の数は把握しております」


「さすがは政光。用意がいいな」


 それからすぐに、村に触れが出された。


 曰く、


『各村々に置いてある武具を高く買うので、皆売りに来てね。夏には大きな市を開くので、売ったお金はその時に使ってね』


 とのことである。


 領主が金を払うとあって、当初の想定を上回る、多くの武具が寺池城に集められた。


 城の倉に運び込まれる武具を眺めていると、ふと疑問が湧いてきた。


「それにしても、父上はなぜ民から武具を買うのだろう。……殿下のように、徴収する触れを出せばよいものを」


 政光が首を振った。


「殿は大した考えをお持ちです。ただ奪うだけでは、民から恨みを買いかねません。

 検地や刀狩りを強行した結果、一揆の起こったところも少なくないと聞きます。

 それゆえ、銭を払い、民から武具を購入することで、民の意思で刀狩りを行おうというのです」


「しかし、それでは銭がかさんでしまう。ただでさえ当家は財政が厳しいというのに」


「市を開くとありましたが、おそらくそこで税をかけるのでしょう。塩や酒、味噌に麹……税をかけられる物はいくらでもあります。さらに商人から賄賂をもらうことも考えると、始めに出した銭もいくらか回収できましょうな。

 また、商人が集まるとなれば、新たに築いた港も賑わうことでしょう」


 政光の説明に、清久は合点がいったように頷いた。


「なるほど、さすがは父上。先の先まで見越しておられるのか……」


 運び出されていく大量の銭を眺め、ポツリとつぶやいた。


「それにしても、この金はいったいどこから出てきたものなのだろうか……」


 この時の銭が、奥州再仕置軍の予備の武具を購入する予算であると清久が知るのは、それからしばらくのことであった。






 吉清から下された命令に、大道寺直英は頭を悩ませていた。


「どうしたものか……」


 街道の敷設、整備のために吉清から送られてきた予算は膨大であった。


 民には賦役を課すとして、食費や道具、その他必要経費を除いても、大部分が余る計算だ。


 その予算の意味を考えて、はたと思い当たるものがあった。


 聞くところによれば、夏になると奥州再仕置軍が組織され東国中の大名が動員されるらしい。


 そこで南部領に向かう大名の多くは、必然的に木村領を通ることとなるわけで──


 そこまで考えて、直英は確信した。


 これは、他の大名に恥じない街道を造れということなのだ。


 そうでなくては、この予算の説明がつかないではないか。


 日ノ本一の街道を敷設するべく、大道寺直英は気持ちを新たに奉行に務めるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る