18話「いざ、ギルド」

ラトとペトラを仲間に迎えた翌日。

俺は藁の上で目覚めた。

そう、これから宿に泊まる金が貯まるまでしばらくは馬小屋が俺の寝床である。

どうやらずっと前に使われなくなって所有者も無くなって以来、金のない者たちの寝床になっているらしい。

言い方によっては廃墟に巣食うホームレスとも言えるかもしれない。

前世ではアニメを見ながら「1度でいいから馬小屋の藁の上で寝てみてぇな〜」と思っていた。

遂にそれが叶ったのだ。

現在、季節はおそらく春。

暖かく過ごしやすい季節で、馬小屋でも特に暑くも寒くもない。

まぁ俺は春より秋、夏より冬の方が好きなのだが。

どれだけ脱いでも暑いもんは暑いが、寒さは服を重ねればどうとでもなるからだ。

そんな無駄話は置いておいて、とにかく俺は藁の上で目覚めた後ラトの家へと向かった。

税の取り立ては周期的に来るらしいので、その日の周辺だけラトの家に泊まるということになっている。

普段から居てもいいとは言われたが、やはりまだ出会ってから日が経っていないので丁重にお断りした。


ラトの家は路地裏を少し進んだところにある、小さな家だ。

途中何度か獣人に怯えられた気がするが、気にしたら負けの精神で歩いた。


「アルラスさん!おはようございます!」


「おはよう、アルラス!」


「おはよ。朝の支度は出来たか?」


「はい、準備できてます!」


「よし、行くか!」


生前の癖で俺の起床時間は少し遅い。

普通の人ならとっくに飯も着替えも色々と終わらせているような時刻なので特に心配はしていなかったが、一応聞いてみた。

ちなみにどこへ行くかというと……


冒険者ギルドだ。


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「着きました、ここがギルドです。」


「りょーかい。……さて、何を叫ぼうか」


「あまり目立つことはしないでいただけると嬉しいです……」


恥ずかしそうにそう言うラトを「冗談だ」と落ち着かせ、再びギルドの扉に対面する。

今までに見た事がないくらい大きな扉だ。

これを開けて中に入れば、アニメで見るような荒くれ者達が集っているのだろうか。

そんなことを考えながら取っ手に手をかけ、扉を押しあけr……


「ぐおおおおおおおおお!?!?」


「おお、悪ぃ悪ぃ。大丈夫か?」


扉を開けようとしたら向こうから開いて顔面を強打した。


「あ、ああ、大丈夫だ。……お前も怪我してないか?」


「はい、大丈夫です。」


「おっ、奴隷に……使い魔も持ってんのか。お前新人だろ? 期待の新人だ、案内してやろう」


奴隷……か。

まぁラトや自分の身を守る目的ではそう誤解された方が良いんだが……いい気分ではないな。


「いや、大丈夫だ。気持ちだけ貰っとくよ。」


不快感を押し殺し、表面だけの笑顔を作って断る。

あまり他人と距離を縮めすぎると俺とラトが主従関係でないとバレる可能性が高まる。

それだけは絶対に避けないといけない。


「ははっ、そうか。頑張れよ。奴隷持ちや使い魔持ちの冒険者が活躍したって話はよく聞く。期待してるぜ」


男に別れを告げ、今度こそ冒険者ギルドに足を踏み入れる。

そこは俺の想像していた通り、数多くの冒険者達が集まっていた。

受付で報酬を受け取る者、テーブルで朝から酒を飲む者、掲示板の前でクエストを見繕う者......

これはテンション上がるぜ。



「登録はお1人と、奴隷1名でよろしいですか?」


「はい、お願いします」


「……お願いします。」


やはりラトはかなり緊張しているようだ。

無理もない。さっき会った男にも目の前の受付嬢にも欠片も疑問持たず奴隷と言われたのだから。


「それでは、この魔晶に少し魔力を送ってください。ステータスを読み取ります。」


魔晶……魔力の結晶みたいなものだろうか。

出された魔晶にそれぞれ手を当て、魔力を送る。

魔晶が少しだけ発光し、その光がその下に置かれたカードに落ちた。


「ステータスの取得は完了です。冒険者カードは自身のステータスの確認やスキルの取得、討伐モンスターの確認、冒険者ランクの確認ができます。奴隷用カードは主の許可無しには操作できないようになっています。紛失した場合でも本人または主以外が持つと内容が見えなくなりますのでご安心ください。」


「分かりましたー……ステータス欄以外に斜線が入ってるんですが」


「はい、これは冒険者ギルド独自のシステムで、新規登録者の方々には初めに模擬ダンジョンに挑戦していただくことになっております。その成果によって初めの冒険者ランクが決定され、受注可能なクエストのランクも決まります。」


なるほど。初心者が高難度のクエストに挑んだり、逆に戦闘の心得がある者が低難度のクエストしか受けられないといったことを回避するためのシステムか。


「模擬ダンジョンではダメージを受けても即座に魔法で回復し、代わりにダメージ量に応じて重力を増大させる仕様となっております。これは回復薬や魔法で回復できます。また、重いダメージを受けてしまう場合には即座に戦闘中の魔物が浄化され、その時点で模擬ダンジョンの挑戦終了となります。」


めちゃくちゃ親切設計じゃねーか。

要はノーリスクで自分の戦闘力を測れるわけだ、素晴らしい。


「模擬ダンジョンは今すぐでも挑戦していただけますが、どうしますか?」


どうするも何も、俺は今一刻も早く金を手に入れなければいけない。答えは1つしかないんだよな。


「はい、今からお願いします!」

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残念チートと行く異世界冒険譚 レグ巻き @lickyqoo420

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