嘘
遠藤良二
嘘
俺は嘘をついた。さまざまな嘘。例えば、仕事をやすむためについた嘘。熱があるから、おなかが痛いから、親を病院につれていくから、俺は上司をだましていると同じだ。
そして月末の給料日には収入が少なく友達から足りないぶんを借りている。ほぼ毎月。かえすお金もままならないので、最近ではその友達とは連絡がつかないときが増えた。きっと、あきれていると思う。
彼女はいたが、俺が、
「三千円貸してくれ」
とか頻繁に言うのでフラれてしまった。自業自得だ、仕方がない。でも、フラれてすぐのころは、
「ちゃんとかえすから」
そう言って寄りをもどしてくれたこともあったが、やっぱり返せなくて、
正直に打ち明けてあやまったけど、嘘つき! というレッテルを貼られてまたフラれた。
仕事はたまにやすむ、友達にはあきれられる、彼女にはフラれる、といいことはなにもない。でも、これはすべて自分がしでかしたことだということは自覚している。じゃあ、どうすればいいのか。俺は悪い頭で考えた。まず、仕事はやすまずに行く、ひとからお金を借りない、嘘をつかないこと、などを考えた。
だが、なかなか考えたとおりにはいかず、数日後に、
「病院に行きたいのでやすませて欲しい」
言って、やすんでしまった。これは真っ赤な嘘だ。でも、自分の異常なまでの嘘をつく行為に親にはなしてみた。すると、
「そんなの嘘をつかないように心がければいいじゃないの」
そう言われた。たしかにそうだ。だが、俺はひとつ思った。精神的に異常があるのでは? と、いうこと。それもはなしてみた。母親は、
「気になるなら、行ってみたらは? たしかにあんたはちいさいころから嘘をつく子だったかもね」
やっぱりか、記憶にないけどそれは幼少だったからだと思う。
土曜日、日曜日しかやすみがないので、まえもって月曜日に心療内科に行 く旨を上司につたえた。上司は、
「どうしたんだ?」
訊かれたので、いままでの経緯などをはなした。すると、
「なんだ! 嘘だったのか! まあ、でもそういう病気がいまの時代ではあるのかもな」
俺はうなずいた。
「わたしが言えるのは、嘘だと思ったら言わないことだと思うぞ」
「はい、そうかもしれませんね」
50歳くらいの上司は、俺が嘘をつくことを病気だと思っていないようだ。医者に診てもらってからそういうことは言って欲しい。
今日は金曜日。明日、明後日はなにをしよう。俺の嘘のせいで、友達はほとんどいなくなった。さみしい。もし、病気のせいなら親や上司はもちろんのこと、友達だったやつらにもつたえよう。また、付き合うようになればいいなぁ。
俺は自分なりに何とかできないものかと思い、まずはネットで検索してみた。[嘘をつく 病気]と入力して見てみた。すると、「虚言癖」という言葉が出て来た。さらに見ていくと、「パーソナリティ障害」という見方もできると書いてある。パーソナリティ障害? 初めて見る病名だ。パーソナリティ障害を調べてみた。すると、[大多数の人とは違う反応や行動をすることで本人が苦しんだり、周囲が困ったりする場合に診断されます]と、書いてあった。それを読んだあと、本屋にも行ってみた。だが、その本は売っていなかった。あるのは、うつ病、パニック障害、統合失調症、心臓病、糖尿病など。
病院に行くのが一番いいのかもしれない。
そして、月曜日。俺は保険証と財布、スマホ、車の鍵を持って家を出た。目的の病院に着き、院内に入った。初めて入ったのでまず、まわりを見渡した。はいって右側に受付と会計がある。正面に院内薬局と書いてあり、左側には売店があった。その奥には廊下がある。この先は何があるのだろう。
まずは、受付に行けばいいのかな。そう思い、向かった。受付で保険証を渡した。初診ということで、何やら紙を渡された。事務員が、
「こちらに記入して下さい」
と、言ったので記入していった。色々な質問があった。正直、面倒。まあ、仕方ないだろう。それを、事務員に戻した。
「予約はされてないですね。予約されている方が優先なので、暫く待つと思いますがいいですか?」
「はい」
暫くってどれくらいだろう。それも訊いてみた。
「そうですねぇ、1時間から2時間くらいですかね。すみません、はっきりとしたお時間が分からなくて」
俺は帰ろうか、と思った。でも、医者に診てもらわないと、そう思い直し、椅子に座った。
院内は結構混んでいて、職員も忙しそうにしている。同じ職員が何度も行ったり来たりしている。この町には心療内科は一軒しかない。だから、尚更か。あとは隣町に精神科が一軒ある。田舎だからそんなもんだ。山とはほど近く、そこには田んぼと畑と牧場がある。なので、牧場の近くに行くと少し馬糞臭い。
そこに救急車がけたたましいサイレンの音を鳴らしながら玄関の前にはいってきた。救急車の中から青い作業着を着た救急隊だろう暴れている患者を両側から取り押さえながらはいってきた。大声を上げている。その暴れているのを抑えられた患者はまだ若いようだ。無理矢理、奥の方へ連れて行かれた。診察室があるのかな。
それから少しして、外来の看護師かな、職員がやって来て
「山崎さんですか?」
「はい、そうですけど」
「あの、急患がはいったので、もう暫く待っていただくことになりそうなんですが、お時間大丈夫ですか?」
「どれくらい時間が延びるんですか?」
「そうですね、少なくとも30分以上はかかるかもしれません」
俺はそれを聞いて、気が重くなった。
「はぁー……。そうですか。わかりました。待ちます」
「申し訳ないです」
職員が悪いわけでもないのに、何で謝るのだ。まあ、患者が謝るわけがないか。
俺はスマホを弄って時間を潰していた。そしてようやく、
「山崎さーん」
と呼ばれた。時刻は午後4時過ぎだ。1時ごろに来てすでに3時間が経過する。初診だからと急患だからこんなに待つのかな。次、来るときもこんなにかかったら嫌になるなぁ……。そんなことを考えながら診察室に向かった。
診察は30分くらいかかった。今までの経緯を覚えている限りを話した。
病名は[パーソナリティ障害]だそうだ。ネットで調べたのと同じだ。医者が言うには、
「パーソナリティ障害の治療には、割と長期にわたって患者と治療者が協力して努力を続けることが、しばしば必要になります。なので、カウンセリングが行われます」
と、いう話だった。長期にわたってカウンセリング、か。大変そう。
でも、治すためにはカウンセリング受けていかないと。
嘘つき呼ばわりされるのは嫌だ。
今後は病院に通いながら、病院でカウンセリングを受けて真っ当な人生を歩んでいこう。頑張るしか道はない!
嘘 遠藤良二 @endoryoji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます