第3部 自己犠牲:編
1 【プロローグ】
【プロローグ】
「浩平、すまない……。お前に迷惑を掛けてしまった。本当に申し訳無い……。
安江、お前にもこんな辛い目を、味合わせてしまった。すまない……。このワシが、ふがいないばっかりに……ううっ……」
山奥の道端に車を止め、独り言を呟いている者がいた。深夜でもあり、こんな
車の足元には、ビール、ウイスキー、日本酒など幾つもの種類のアルコール瓶が転がっている。
ステーションワゴンの後部座席には練炭に火が付いている。さらに、睡眠薬でも飲んだのだろうか、足元には空になった薬入れが転がっている。車の運転席の隣、助手席には睡眠薬が効いたのか、酒で酔ったのかシートを倒して寝ている中年女性がいる。
運転席に座っている自殺志願者の男は、泣きながら過去を悔やんでいた。胸元に遺書を置き、運転シートをそっと倒した。
「迷惑を掛けたみなさん、本当に、ゴメンナサイ……。ううっ、うううっ……」
『止めな、練炭の一酸化炭素中毒なんて臭くて死ぬ気も起きやしねぇ……ってか、一酸化炭素って臭いは無かったか。まぁどっちにしても、自殺は止めときな』
おもむろに自殺志願者の男に声を掛ける者がいた。
だ、誰だ……こんな山の中に一体誰が? しかも今は真夜中だぞ?
その自殺志願者の男はシートを起こし、辺りをうかがってみた。居ない。誰もいない。こんな山奥の深夜、誰が居るのだろうか。月明かりが不気味な山を照らし、木々を木枯らしが揺らしている。
ワシは、疲れ過ぎているからだろう? きっと気の所為だろう? それとも酒と薬の所為で幻聴か? でなけりゃ、お迎えがそろそろやって来たのかもしれない。
もう一度運転席のシートを倒し、目を閉じ覚悟を決めた。遠くでホーホーと
『止めろって言ってんだろ? オイ聞こえねぇのか? テメエだ、オイ、こら……』
今度は声が大きく聞こえた。 幻聴なんかじゃ無い。居る。確かに誰かが居る。
自殺志願者の男は大きく目を開け、運転席を起こした。その瞬間、フロントガラス越にボンネットに胡坐をかいて、座っている奇妙な姿の男が目に付いた。何だ、目の前に居るのは一体何だ? 誰だ? もしかして
「——ウワッアアー……ヒエッー……出た———!」
『出たーって……。おい、今まで色んなヤツに出会ったが、お前みたいに悲鳴を上げたヤツは初めてだ。落ち着けっての……オイ、いい加減にしろ!』
「モ、モ、も、申し訳ありません……。ヒエッー……なんまいだぶ、なんまいだぶ、ナンマイダブ、ナンマイダブ……」
『——はぁ?……』
その自殺志願者の男は驚いていた。深夜の山奥に自分以外の人物に出会うとは思っても見なかったのだろう。それにその奇妙な姿の男は、冬にも拘わらず裸に薄手のバスローブの様な布を一枚羽織っているだけなのだ。そしてその男にはオーラの様な白い炎が立ち上がっている。更に、驚きの根源はもう一つある。その男の背中に白く大きな翼が4枚生えてある。これだけで十分普通の人間ではない。
煮え切らない自殺志願者の態度に、その男はボンネットから降りて、運転席のドアを勢いよく開けた。
『この~何で、今回はこんなにメンドクサイのか?……』
ドアを開けられ、自殺志願者の男は逃げ場を失った。目の前の現実を受け入れる事は出来ない。酒も飲んでいるし、薬も飲んでいる。もはや、現実と幻想との区別が出来ない。目の前の事実に両目を見開いたが、理解が出来ない。一体何が起きているのか? 分からない。理解できない。
逃げ場が無いので観念したのか、自殺志願者の男は車の室内から出て地面にひれ伏した。目の前の不思議な姿をした人物からの威圧感が半端ない。どうすれば良いか分からない。自然と平伏した。
「ど、どうか、お助けください。助けて下さい……。マンマイダブ・ナンマイダブ・ナンマイダブ……」
『はぁ?……ってちょっと待て。お前・今、俺に向かって助けてくれって言ったよな? ついさっきまで自殺をしようと思っていたんじゃないのか? 何で俺がお前を助けなくっちゃ、ならないんだ? お前、死にたいんじゃなかったのか? そうじゃねぇのか? 有り得ないだろう? 意味が分かんねぇんだけど?』
「……た、た、確かに、そうです……」
その自殺志願者の男は落ち着きを取り戻し始めた。この奇妙な男の話し方は乱暴だが、なぜか心の奥に染み入るように心地よく感じる。その声を聞くだけで不思議と落着いてくるのだ。
「も、も、もしや、アナタ様は神様なのですか?……」
『フン、少しは落ち着いた様だな……。いかにも、一応・神の位を持つ一人にしか過ぎない。故に一応は・神だ。我が名はゼル・ラグエル。悪魔では無い事は確かだ。所で、どんな理由で自殺を図ろうとした? 訳を話すがよい……事と次第によっちゃあ、救いの手を出してもいいんだぜ』
「あ、は、はい、私の名は
和夫はポツリポツリ自分の過去を語り出した。その過去とは?……。
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