第15話 国境を超えた切ない想い

「Kody says he liked you too. You want me to ask him his phone number?」



帰国してニヶ月が経ち、マイカとの電話で久々に聞く名前。彼の想いをはじめて知り、現地校で一緒に過ごした時間を思い出す。



コーディーとは、小学五年生の転校先で出会った。小学六年生でまた同じクラスになり、気づけば彼のことを目で追うようになっていた。


しょうもない意地悪が好きで、何かと私にちょっかいを出してくる。口では嫌がるものの、彼と話せる時間ができて内心嬉しかった。


ある日、私は授業中に席を立ち、テーブル端にあるプリントを取りに行こうと彼の隣を通り過ぎていく。


自分の席で楽しそうに友人と話す彼。私は何食わぬ顔で横を歩き、また話しかけてくれないかなと密かに期待を寄せる。


プリントを手に取り席に戻ろうとした時だった。



「Huh!? What—!」



前に進もうとしていた体をグッと引き寄せられ、私はこけそうになりながら二歩ほど後ろに下がる。自分の腰を見ると、誰かが後ろから手を回してがっちりと抱きついていた。

見覚えのある少し太めのがっしりした腕。後ろを振り返らずともすぐ誰だか分かった。脈が一気に速くなり、心臓の音が耳から聞こえてくる。



「Kody, let go!」


「Try, if you can.」



恥ずかしそうに慌てふためく私を見て、離れてみなよと彼が楽しそうに言う。


少しして彼がパッと手を離し、私は逃げるように自分の席へと戻った。突然の出来事に焦りすぎて、プリントを持つ手が震えているのが分かる。


コーディーに好かれてる気がして落ち着かない。今にも両想いかどうかを確かめたかった。だが、確かめたとしてどうする?先のことを想像していろいろと考えてみた。


もしかしたら、ただの気まぐれかもしれない。彼はもともと少しチャラいし、親友としか思っていない可能性もある。

だけど万が一私のことを本当に好きだとしたら付き合うってこと?私はあと半年で帰国するのに、恋愛し続けるなんて難しい。なにより、海外の恋愛は進んでいて少し怖い。

彼と同じ恋愛の価値観を持っているとは思えず、上手くいく自信がなかった。


自分の想いを押し殺して迎えた登校最終日。



「Kody, I had so much fun being with you.」


「Me too. Good luck in Japan.」



最後に私たちは握手をして、アメリカを去った。



「Or should I tell him your phone number?」



マイカが彼の連絡先を聞くべきか、もしくはくるみの連絡先を教えようかと聞いてくれた。



「Um...... No, it's fine. You don't have to do that.」


「You sure?」


「Yeah. Thanks, though.」


「Okay, if you say so.」



マイカの気遣いが嬉しかった。コーディーの気持ちも嬉しかった。


だが、今更連絡を取ったところで余計切なくなるだけなのが目に見えていた。彼が今住んでいるのは、地球の裏側。現実的に考えて、子どもの私が会いに行けるわけがない。大人であっても、簡単な話ではない。


思い出だけを心に残して、私はこの恋に終わりを告げた。

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ちょっと変わった読み切り恋愛エピソード 遥香 @Meruaiku

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