ヒューマノイドたちの日常 ラスト

 交差点で信号が青に変わるのを待っている間に、リサはサキのヒップを触る。

 ごれは、ごく普通のリサとサキの朝の挨拶だった。

 リサに、お尻を触られたサキの口から、短い声が漏れる。

「んっ……んっ」

 サキもお返しの挨拶でリサのお尻を触ると、リサも声を漏らした。

「んぁ……はぁ」

 彼女たちはインプットされた、滅亡した人間の行為をマネしているだけに過ぎない。

 信号が青に変わり、ヒューマノイドたちは横断歩道を渡っていく。


 学校に到着して教室の自分の机の横に、通学カバンを吊るしたリサがサキに言った。

「ねぇ、授業がはじまる前にトイレにつき合ってくれない?」

「うん、いいよ」

 女性型ヒューマノイドたちは、時々連れ立ってトイレに行くようにプログラムされていた。

 女性トイレの洋式便器の個室に壁を挟んで入った、リサとサキは少し腰を屈めて穿いていない下着を膝まで下ろす仕種をしてから、洋式便座に座った──これも、人間の行動をマネしているだけに過ぎない。

 ヒューマノイドは排泄をしないので、ただ設定された時間が経過するまで、便座に座っているだけだった。


 壁越しにリサがサキに訊ねる。

「ねぇ、あたしたちいつになったら【百合結婚】できるの?」

「もっと、お互いの愛を高めてから……深く愛し合ってから」

 女性型ヒューマノイドたちの最終目的は結婚と呼ばれる。

 絶滅した人間がやっていた儀式を、女性ヒューマノイド同士の百合で再現するコトだった。

 彼女たちには、子供を授かり育むというプログラムは組まれていないので。

 百合結婚後はリセットされて別のパートナーと愛し合って、また百合結婚を行う……その繰り返しだった。


 人間の平均的なトイレ使用時間が経過して、便器に自動水洗が行われると、リサとサキは下着を穿くマネをして立ち上がって女子トイレから出て教室に向かった。


 生徒ヒューマノイドたちに向けての授業は、二十代の女性教師ヒューマノイドが担当していた。

 彼女も【ピー】サイエンスの女性科学者から、本人が知らない間に、勝手にデータを採取された教師だった。

 銀色の裸体にも見える、機械体の女性教師がホワイトボードに描いた図を差し棒で説明する。

「今、話した通り。互いの体を慈しみ触る愛撫は大変重要な愛の行為です……みなさんも、互いのパートナーにキスや愛撫を繰り返して、愛を確かめ合ってくださいね」

 クラスの中には、授業をする女性教師を熱い視線で見つめる女子生徒ヒューマノイドもいた──彼女と女性教師は、教師と生徒という禁断の百合プログラムを組まれたヒューマノイドだった。


 学校にお昼時間がやって来た──リサがサキを学食に誘う。

「ねぇ、一緒にお昼食べない?」

「うん、いいよ」

 学生食堂に向かうサキとリサ。

 学生食堂には、SF映画に出てくるような、金属のベットが並んでいる。

 ヒューマノイドたちは食物の摂取はしない、サキとリサが並んだベットに体を仰向けで横たえると、自動で伸びてきた銀色の細いチューブがサキとリサのヘソの穴に接続され、エネルギーの注入がはじまった。

 ヘソに注入チューブが挿入された瞬間、サキとリサはプログラムされていた人間の反応に従って、体をピクッと動かして。

「うッ!?」と、短い呻き声を発する。

 エネルギーがチューブの中を流れて点滅して、ヘソの穴から食事をしながら、リサがサキに言った。

「ねぇ、学校が終わったら【ミスト洗浄】しに行かない?」

 ヒューマノイドたちは、人間のような入浴はしないが洗車をするように全身洗浄は行う。

 それは、人間の女子学生が帰りに買い食いをしたり。ゲームセンターで遊んだり、カラオケで歌ったりするのと同じ娯楽感覚だった。

 ヒューマノイドたちの娯楽と言えば、ミスト洗浄で同性ヒューマノイドの体が、泡だらけになるのをライブ感覚の配信で眺めたり。

 互いの家を訪れて、愛を確かめ合う愛撫をするコトくらいだった。

 ヘソからエネルギー注入をされながら、サキが隣のベットに横たわるリサの手を握る。

「うん、いいよ……最近、少し体が汚れてきたから帰りに【ミスト洗浄ルーム】に寄ろう」


 学校帰り──サキとリサは、カラオケボックスのようなミスト洗浄の個室に二人で入った。

 ボックスの中には、洗車機のようなアーチがある。

 洗車機のアーチが喋る。

《これから、全身洗浄を開始します……お好みの洗浄コース選択とオプションをどうぞ》

 手を繋いだサキとリサは『シャンプー洗浄コース』と『洗浄後ワックス』を選択した。

《予約されました》の声がアーチから聞こえ。

 所定の位置に進み立ったサキとリサの体を、赤い赤外線で縦横にスキャンしてから、洗浄が開始された。


 ミストがアーチから放出されて、二人の体を適度に濡らす。 

 そして、両目を閉じた銀色のヒューマノイドボディに、白い泡が噴出される。

 泡だらけになったサキとリサの体を、水洗いと同時にモップのようなブラシが二人の体を回転して擦る……まるで、洗車マシンのモップのように。

 泡がすべて洗い流されると、再びミストが放出されワックスミストに包まれながら二人の体はワックスされた。


 ワックスミストの中、向かい合って互いを見つめ合うサキとリサ。

 SAKI・HVW─18と、LISA・HVW─17の唇が甘く重なる。

「んっ……リサ」

「はぁ……サキ」

 遠目から眺めると、生々しい銀色の裸体にも見える、機械体の女性型ヒューマノイド。


 光沢を帯びてきた体でキスをしながらサキとリサは、乳首の突起が無い胸の二つの塊や、のっぺりとした股間の人形のような体を互いに撫で回して愛を確かめ合う。

「んっ……はぁ、リサ……んんっ」

「はぁ……サキ……んぁ」


 今は滅亡した人類の【ピー】サイエンスな女性科学者が勝手に収集した、SAKIと、LISAのデータ元となった生身の人間も。

 まさか、自分たちのデータが組み込まれたヒューマノイドが未来に作られ、GL恋人設定されて勝手に百合行為をさせられているなど……想像もできないコトだろう。


 抱き合ってキスをしながらSAKIが、ライブ配信をされているカメラのレンズを横目で見ながら言った。

「LISA、みんなが見ている……んぁ」

「はぅ……¨見せてあげよう、あたしとSAKIが愛し合っている姿を……愛しているよSAKI」

「あたしも、LISAを愛している世界で一番」


【ピー】サイエンスの女性科学者が妄想から想い描いていた。

 GLの【百合ユートピア】は、進化したAI『イプシロン・アイ』によって人類滅亡後に実現した。


  ~おわり~

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【SF百合】LISAとSAKI──人類が滅亡してAIが管理する未来世界で人類の文明をマネして女性型ヒューマノイド同士でGLします 楠本恵士 @67853-_-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ