第53話 出発

「いよいよ、出発だな…。」


素晴らしく晴れた朝、私とセイラムが出発する日。


「ノア兄ちゃんも、優さんも元気で…。」


私達は、それぞれ馬に乗る。

今、この星人の移動手段は、動物だと言う事で私達もその生活水準でこれから過ごして行かなくてはならない。

コードレスドライヤーどころか、電気もない。水道も普及していない。

ドームでの恵まれた生活水準が、絶たれる。

私の左耳にあった青いピアスも、もう無い。

地球の情報は、もう必要無いからだ。

優さんの家を出るこの時から、優さんは、今後私達を迎え入れる事は無い。

色々な事からの決別。

しかし、この決別は、新しい世界の入口…。


「では、ノアさん、さくらさん。あなた達は、夫婦という事で、戸籍を用意してあります。職業は、教師とかお勧めかと思います。あなた達は、文明の進行を知ってる訳ですから、子供達に色んな未来の可能性を教えてあげて下さい。」


「「はい。」」


「健闘を祈ります。お元気で…。」


「優さんも、…ノア兄ちゃんも…。」


二人の顔をまじまじ見る。


優さんの表情が少し和らぐ。ノア兄ちゃんは、いつもの優しい笑顔で私を見る。


「気を付けてな…。」


「…うん。」


目が熱くなる。


「そろそろ行こうか…。」


「うん…。」


私達は、前を向いた。

目の前には、ただただ広い草原が広がっていた。

数日前の大雨で、所々しか生えていなかった草が一面に広がったのだ。

私は、セイラムを見る。

セイラムも、私を見る。

さぁ、行こう。二人で…。何処までも…。


何処までも…。





「これで、良かったのですか?」


二人が見えなくなった頃、優さんが二人が行った方向を見ながら、俺に問う。


「あぁ…。無理言って済まない。」


「……。」


「これ以上、二人が一緒にいる様子を見るのは、辛い…。」


二人が進んだ方角に目を向けたまま、顔を歪める。

チラリと優さんがこちらを向いた感じがする。


「その辺の感情は、残念ながら私には分かりません。私は、データで生きてますから。ただ、さくらさんに要らぬ心配をかけたままというのが…。」


「その辺については、大丈夫…。セイラムが俺の病気は完全に治るってことに気付いてる…。それに、もうしばらくは、点滴治療が続くのは本当なんだから…。」


「……。」


「俺は、今から一年…。この時代の医療をしっかり頭に叩き込む…。」


爽やかな風が俺の鼻先を通り過ぎていく。


「…そろそろ、戻りますか…。」


優さんは、クルリと体の向きを変え、戻って行く。

青々とした草が、嬉しそうに光る。


「あっ、そう言えば…。あの二人、夫婦っていう戸籍にしなくてもよかったんじゃないのかっ!」


慌てて、優さんを追いかける。



そんな風景がこの星には、あった。





[完]


ここまで、読んでくださった方…、

ありがとうございました。

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世界の果て 萌奈来亜羅 @mosumi

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