第52話 私の動揺
コンコン…。
私の部屋のドアを叩く音がする。
返事する気にもなれない。
「さくら…。入るよ…。」
セイラムが入って来たのを一度確認し、再び窓の外を見る。
「どうしたんだ?今日1日元気なかったよな…。」
「う…ん。」
私は、ノア兄ちゃんの治療の事をセイラムに話した。
「…まぁ、優さんの家から離れられないとはいえ、薬が出来て良かったんじゃあねえの…。」
素っ気ないセイラムにカチンとくる。
「そうかもしれないけど!もうノア兄ちゃんとは…」
私の唇は塞がれる。
すぐ目の前に瞳を閉じたセイラムの瞼がある。
私の唇に柔らかい感触がある。
キスされてるっ!
今はそんな気分じゃない!
「…う……。」
セイラムの胸を数回叩く。
セイラムは、更に強く私を抱き締める。
私の拳が、私の体とセイラムの体に挟まり込み、動かせなくなる。
「…あ……。」
このままでは、駄目だ…。
腕に精一杯の力を込め、一気に伸ばす。
背中に回されていたセイラムの腕が一気に外され、その反動で私は尻もちを付く。
「さくら…。」
心配そうに私を抱き起こそうとする。
「嫌だ…。」
そう言って、セイラムの手を弾こうとするも叶わず、再び抱き締められる。
「さくらは!ノアの事ばっかりっ!!ノアノアノアばっかり言い続けて……。俺は?もっと俺を見ろよっ!」
え……。
まじまじとセイラムの顔を見る。
怒りの混じった瞳で、私を見ている。
「そんなに…、そんなにノアが心配なら、ノアと一緒にここに残ればいいっ!俺、一人ここを出る!」
そう言って、私の部屋を出て行こうとする。
「待ってっ!!」
慌てて、セイラムの背中を後ろから両腕で抱え込む。
「セイラムと離れるなんて、考えられないっ!」
思うより先に言葉が出た。
セイラムの背中に頭を擦り付ける。
「どうして?…どうして、そんなこと言うの?」
お腹に回した手を優しく掴み、クルリと私の方を向く。
「さくらが、ノアのことばかり言うから…。」
目に留まっている涙をそっと唇で拭いてくれる。
「ご…ごめんなさい…。」
ポロポロと涙が零れる。
今度は、指で優しく拭ってくれる。
「ノアと別れるのは、確かに辛いかもしれないけど…、良くなる薬が出来たんだから良しとするしかないじゃないか…。俺だって、本当は、辛いんだよ…。でも仕方ないじゃないか…。」
「うん…。」
セイラムに抱きつく。
セイラムの胸に顔を押し付ける。
「俺達は、いつまでもここに留まる訳には行かないんだ…。前に進まなきゃ…。」
「うん…。」
セイラムの匂い、感触が、私を落ち着かせる。
「そうだね…。」
尖ってた私の心が丸くなっていくのが分かる。
セイラムの存在がそうさせる。
私には、この人が必要だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます