第十一話 学校生活

 その後、びっくりするほど何も無かった。

 至って平穏な学校生活に、僕は小さく安堵する。

 テストではちゃんと首位をキープ出来たし、花音さんも同じ上位クラス——一組に入っていた。張り出された順位表によれば五位の筈だ。

 「負けない」と言っていた彼——民倉 縁和(たみくら よりかず)は二位から不動。他にはいくつか見覚えのある苗字があったが、特に関わり合いはない為スルー。

 とにかく僕らのスタートダッシュは成功であった。


「咲斗〜」


 教室に入ると、僕目掛けて声が飛ぶ。


「・・・大地。荷物片付けてから話させてって言ってるだろ」


「硬いこと言うなって!そんなんだからぼっちなんだぞ」


 見るからに軽薄そう茶髪の男子——小笠原 大地(おがさわら だいち)が無神経にも人の心を抉ってくる。


「ぼっちじゃない。ちゃんと友達だっているよ」


「へぇーーー。それはご紹介に預かりたいな」


「無理だね」


「即答っ!?」


 おっと。ついつい。大地相手は思わず毒舌?になってしまう。


「しっかし、、お坊ちゃんお嬢さん方は分かんねえなぁ。喋ってみたらこんなにも面白いやつだってのに。可愛げはないけど」


「可愛げがないは余計だよ。僕にしたら御曹司方に関わらないで済むのは良いかな。面倒事はもう懲り懲りだ」


 僕はサッ、と一緒に入って来た花音さんを流し見る。

 僕に話しかけて来たのが大地一人に対し花音さんは十人ほど。それを営業スマイルで上手く捌きながら席までたどり着いている。その後も鉄壁の微笑で一歩二歩引いた距離で話している。社交スキル高いなぁ。


 どうやら自己紹介の後彼らは僕のことを調べたらしい。なにせ経済を牛耳り、一歩引いているとはいえ政治にも多大なる影響力を持つ音羽家だ。その威光は僕のようなしがない一般人でも知っているほど。そんな家の突然現れた人間なんて調べるに決まっている。

 その結果。端的に言うと彼らは僕を取るに足らない存在と断定したようだ。

 『親が夜逃げした子供を、音羽家が慈善活動の一環で拾った』。

 そういうことになっているらしい。

 名家でいう養子というのは親類の子を引き取るか子供が女子しかおらず婿養子とするパターンが一般的だが、僕は音羽の縁者じゃないし、首席といっても婿養子にするには家柄や社会的地位が足りない、と見做されたようだ。


 故にその後僕に話しかけて来た人間はというと、・・・驚きのゼロ。


 みんな音羽家に擦り寄ろうとオアシスに群がる動物のように花音さんの方を向かっていく。ただまぁ名家の子女だけあって良識は弁えてるのか絶妙な距離感を保っている。


 で、そんな中僕に話しかけて来たのが、大地だったってことだ。


「いいのか?あの中に混ざらなくて。親から音羽に擦り寄ってこいとか言われていそうだが」


 席についた僕は、頬杖をつきながら花音さんの方を見て嘆息する。

 大地は苦笑し、心外だと言わんばかりに大仰に両手を振った。


「言われてないから安心しろ。俺の家は清和源氏。すなわち武士であり軍事貴族の家系だ。商人ではないし、・・・権力にすり寄った武士の末路は見飽きた」


「小笠原は土木事業を営んでいるじゃないか」


「あれは副業だよ。小笠原の本懐は皇別氏族としての誇りを護り、古き伝統を繋ぐこと。故にすり寄ったりなんてしないよ」


 真剣な面持ちで語る大地に、思わず僕は引き摺り込まれる。

 誇りを語る大地には、そのくらいの凄みがあった。


「まぁ、あとは・・・」


 意味深に言葉を区切り、ニヤァと笑う大地。その表情に、背筋に確かな悪寒が走る。


「お前を過労死させたくないからな。どうせ音羽侯爵からお目付役でも頼まれたんじゃないか?」


 ・・・図星だった。


「はははははっ!!やっぱりな!さりげなくフォローしてたようだが俺から見たら丸わかりだったぞ!」


 そこで僕は花音さんから視線を外し、壊れたゼンマイ仕掛けの人形のようにぐぎぎっと首を回す。そして辛うじて声を絞り出した。


「気付いている人、他には?」


「お前って意外と怖えんだな。・・・いないと思うぞ。ほんと〜にさりげなくだったし、みんな華にかかりきりだからな」


 特にやましい事はないが思わず胸を撫で下ろす。そして誤解するような言い方をした大地へ非難の眼差しを向けるがあちらはどこ食わぬ表情だ。

 顔を背け、窓越しに外を眺める。入学当初は傘のようになっていた桜の木はその花弁を落としきり、土に塗れた華は風に導かれるままに空を舞う。空き窓から少し早い熱風が吹き、これから起こる事を示唆するかのように僕の髪を荒々しく掻き混ぜ閉まったままの窓へとぶつかっていく。

 大地が口の端を釣り上げニっ、と笑いかけてきた。


「まぁ兎に角。長いようで短い高校生活を楽しもうぜ」


————————————————————

あとがき

 お久しぶりの琴葉刹那です。

 さて前回から大分期間は空いておりますが覚えていらっしゃいますでしょうか。相も変わらずテスト前の投稿です。

 さて、最近は総文祭があったり模試があったりしたのですが私はまだ元気です。

 探求では文芸創作を選びました。今はカクヨムコンテストに向けて一から作品を書いています。

 あと近いうちに十話を書き直そうと考えています。あれはかなり変だ。

 それではまた次回お会いしましょう。ばいばーい。


 



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社長令嬢と借金執事 琴葉 刹那 @kotonoha_setuna

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