「かくれんぼおとうさん」
よっちゃんは小さな女の子です。
お母さんはいますがお父さんはいません。
物心ついた時からそうなので、よっちゃん自身はそのことを、あまり気にしていませんでした。
でも幼稚園に通うようになって、友達から、それぞれのお父さんのことを聞き及ぶにつれ、自分のお父さんは果たしてどこにいるのかだんだん気になってきました。
だから、夕飯のとき、お母さんに聞きました。
「おかあさん、わたしのおとうさんはどこにいるの」
お母さんは冷蔵庫から冷凍エビフライを出しながら、こう言いました。
「よっちゃんのお父さんは、いつもお家にいるわよ」
「うそ、わたし、おとうさん、みたことないわ」
「それはお父さんが、隠れているからよ。お父さん、かくれんぼが好きなの。探してみてごらんなさい」
その日からよっちゃんは、お父さんを探し始めました。
家じゅうの部屋はもちろん、引き出し、戸棚、箱の中も探してみました。
でもお父さんは見つかりません。
よっぽど上手にかくれんぼしているのでしょう。
困ったよっちゃんは、夕飯のとき、お母さんに訴えました。
「おかあさん、おとうさんみつからないよー。ほんとうにおうちにいるの?」
お母さんはチーズ入り冷凍ハンバーグを、レンジでチンしながら言いました。
「いるわよー。お母さん、毎日見てるもの」
「ええー。じゃあどこにいるのかおしえてよう。わたしもおとうさんみてみたいー」。
「そう? じゃあ、見せてあげようかしら」
お母さんはよっちゃんを手招きして、冷蔵庫の一番下にある冷凍庫の引き出しを開けました。いつもいっぱいに詰め込んでいる冷凍食品のストックを、外に出しました。
「あなた、よっちゃんがあなたのこと、見てみたいんだって――ほら、お父さんここにいるのよ、よっちゃん」
よっちゃんは引き出しを覗き込みました。
するとそこには、確かにお父さんがいました。
「おかあさん、おとうさん、かおだけしかないわ」
「そうね。狭くてそれだけしか入れなかったのよ」
「ふーん。おとうさん、まっしろね」
「あんまり長くいるから霜がついちゃったのよ」
「さむくない?」
「寒くないんじゃないかしら。ほら、笑ってるでしょう」
「ほんとうね。わらってるわ。でもなにもいわないのね」
「お父さんは恥ずかしがり屋なのよ。だから、見つけたことを誰にも言っちゃだめよ?」
「うん、わかったわ」
よっちゃんは満足して、冷凍庫の引き出しを閉めました。
そして翌日、またお父さんのことを見てみたくなったので、扉を開いてみました。
だけど、もうそこに、お父さんの姿はありませんでした。
きっと自分に見つけられちゃったから、別のところへ隠れてしまったに違いない。
よっちゃんがお母さんにそう言うと、お母さんは、「そうね」と笑って答えました。冷凍チャーハンを炒めながら。
手の平に乗るホラーショート×10 ニラ畑 @nirabatake
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます