第17話 償いとは

少し離れていた消防隊員らは吹き飛ばし壁に突き刺さった窓を見て目を丸くしていた。


「本当に人間かよ」


驚きで一瞬固まっていた彼等だったが直ぐに我に返り窓だった場所に彼らの一部が放水をし、私を含め残った数名は中へと突入しようとしたが突入するメンバーの1人が私を止めた。


「川崎さん、あなたが普通ではない事は分かりますけど流石にこの炎と煙の中を装備なしで行くのは危険かと」


それはごもっともな意事だった、なぜなら今の私はいつも来ているよく警察官が着ているような青色の制服を着ているだけでそれらしい装備は一切していないのだ。だけど私も馬鹿ではないのでしっかり対応策は考えてある。


「大丈夫、私はこのままでも行けますので」


私は消防車から伸びるホースから水を出しながらそう答えた。


「いや、あなたの能力でどういくんですか!?」

「よしっ!準備完了」


私は準備が終わったため消防隊員が言っていた事を無視して炎と煙が揺らめく地獄へと入った。

 家の中は酷い有様だった。どこを見ても燃え盛る炎と灰色の煙が目に映り、家具は原型を留めていないほどに燃え、天井は一部が焼け落ちていた。

私が入ったのに続いてさっき何か言っていた消防隊員等も突入した。

彼等が入った時彼等の足音による空気の揺れに紛れて全く違う人の声のような空気の揺れを感じた。


(これはこの階からじゃない、おそらく二階か天井裏か?)


私はこの空気の揺れを泉君だと推測して階段へと走り向かった。階段は炎に犯されていたが私の能力で炎を消した。

炎が消えると数段は燃えて使えなくなっているが一応は使える階段が姿を現した。

階段を一段上るごとに肉の焼ける臭いが鼻を通り抜ける。

 そして階段を上り終えるとそこには炎の海の中で無表情だがどこか悲しそうな顔をした泉君がそこに立っていた。


「泉君!」


私はさっきの方法で彼の周りに燃え盛る炎を消した。私は脚に大火傷を負っていると思って彼の脚に目をやると一瞬目を覆いたくなるほどの大火傷が目に映るがそれはすぐに回復し、元通りの脚へと戻った。私はそれを見て小さな声と共に驚きが零れ出る。


「どういう事……」


だけどここで私が驚き固まってしまったら泉君に不安を与えてしまうかもしれないので私は平静を装って彼の身体の状態を確認する。


「泉君、大丈夫?どこか変なところは…」


すると彼は突然何で自分を助けに来たのかと私の耳をつんざくほどの声量で訴えかける。

その声は悲鳴にも歓声にも聞こえた。まるで生きるという事に怯える声にもまだ生きれる可能性に喜んでいる声にも感じた。


「どうしてって、誰かが命の危機にあっているなら助けるのは同然でしょう」


私はそれが今まで当たり前と思って生きてきた。

だがそれは私の中だけであり、私の外から一歩出ればその考えは全く違うものだと私は彼の言葉で知らされた。

私は少し考えた、自分が今まで貫いてきたこの考えは間違っているのかと死にたいと願う人間がいればその者は死なせた方がいいのか、そういった者を生かして苦しめるような事をしてまで生かすべきなのかと考えた。

だが答えは出ない、いや出るはずがなかった。でも1つだけわかった事があった、彼は今死ぬべき人間ではない。なぜかというと私がさっき聞いた言葉には確実に喜びが混ざっていた、たったそれだけの事それ以外に何もないし、それだけで十分な理由だ。

 

だから私はどうにかして生かそうと決してこの後に苦しまない形で。

私は一体何が彼を苦しめているのかを聞いたところ彼は事件の日に自分のした行動に罪悪感を感じ、両親が死んだのは自分のせいだとしそれを償うために死のうとしたらしい。

まんま部長の推測通りだった。


(当たりすぎてむしろきもいわ)


私は彼の死ぬ理由を聞いた時部長に対する嫌悪感と昔、言われた事を思い出した。


 それは私が刑務所での生活などを紹介している動画を見ていた時に刑務所での生活に対して発言した事から始まる。


「刑務所って思ったより快適な生活なのね」


この時はお昼時で私と部長以外は何処かに行ってしまい、カップラーメンを啜る音だけがなる世界でそれを呟いた。

それを聞いた部長が自分の席から立ち上がり私の下にカップラーメンを持ちながら近づいてきた。


「[刑務所での驚きの生活!?]か。へーこんな動画もあるんだ、最近いろんなのあるなぁ」


私は部長にその動画を見せて意見を求めた。


「部長はこの動画についてどう思いますか?」

「んーまぁこれくらいが妥当じゃないか」

「どうしてですか?」

「罪を償う場所ならこれぐらい十分だろ」


私はその意見に納得出来なかった。確かに軽めの罪を犯した人にならまだわかるがなぜ重い罪を犯した人にも同じような処遇なのかが分からなかった。


「なんだ川崎はもっと厳しい方がいいと思うのか」

「はい、だってこんな生活じゃ重罪を犯した人の罪は償えない」

「川崎は罪は苦しみによって清算されると考えているのか?」

「まぁ、そうですね」

「確かにそれも一つの償いの形だ、でもそれは今の刑務所での生活で間に合っていると俺は考えている」


部長は手に持っていたカップラーメンの容器を私の机に置いて話し始める。


「罪を償う事は俺の中では自分の犯した罪に対して自分が死ぬまでの間の向き合い方だと思う」

「どうしてです?」

「だって、自分が犯した罪をきっかけに何かしら社会のために行動しようとする人は自分の罪を償っているはずだろ。逆にその罪をきっかけにまた別の罪を犯す人間が償っているとは言えないはずだ」

「確かに、そうですね…」


納得できたが1つだけ疑問が浮かぶ。


「その場合、死刑はどうなるのですか?死刑の場合外に出れる事は絶対にありませんから社会の役に立つことも罪を犯すことも出来ませんよ」

「まぁ、死刑は死ぬ事自体が償いだからなぁ」

「だったら獄中で自殺することもですか?」


私がそう言うと部長は苦笑いをしていた。


「極端だな…それは罪から逃げているだけだよ」

「罪から逃げるとは?」

「罪から逃げるより自分を苦しめるものから逃げると言った方が正しいかな」

「つまり、どういう事ですか?」


部長は自分の分のカップラーメンを食べ終えたようでゴミを捨てて自分の席のすぐ近くの小型冷蔵庫に入っているいかにもキンキンに冷えてそうなコーラを取り出しながら答えた。


「あー、要するにだ。もし死刑になったらいつかも分からない死の日に怯えたり、自分のした事の重さに気付いて自分の行いを深く悔やんだりそう言ったものなどが自分の精神を苦しめてそういったものから逃げるために自ら死を選ぶという事だ」

「ですが前者は確かにそうですけど後者は逃げているのですか?」

「あぁ、いくら自分の行いを悔いていてもその段階で罪を償おうと死ぬ事は逃げるのと同意だ。その後悔から来る苦しみを乗り越え、それを経て今をどうするかを死ぬまでに考える事が死刑囚に出来る1番の償いだと思う」


そう言ってコーラを一気に半分程飲み干した。


 私はそれを思い出し部長の言葉を自分なりにまとめて泉君は逃げていると話すと彼は自分は違うと否定していたがその違うという声は自分に無理矢理言い聞かせているようだった。その後も部長の言葉を借りながら今は死ぬべき時じゃないとまだ君にはすべき事があるとそんな事を伝えているうちに彼の目は少しづつ光を取り戻しているように感じた。最後には彼は大粒の涙を流しながら頷いていた、その顔は眩しいほどの快晴だった。


















 

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