第15話 浄化

廊下はほぼ全焼状態だったが何故か玄関と扉は一切燃えていなかった。

 俺はその事に対する疑問も炎に対する恐怖はなかった、炎に対しては有り難みすら感じていた。

俺は気づかぬうちに廊下で燃え盛る炎に一歩二歩と少しづつ近づいていた。

何故かあの炎が美しいと感じてしまった。

この炎が偶然ではなく運命的な物だと感じた。

悪人を罰する浄化の炎に感じた。

一歩近づくごとに増す皮膚から感じられるこの苦痛とも取れる熱ささえも少し心地よいと思った。


脚が炎の中へと沈んでいく、熱いと感じるがその脚を抜くことはそれよりも苦痛だった、次にもう片方の脚が沈み、それと同時に胴体も沈んでいく。

鼻に入っていく自分の肉の焼ける匂いから死ぬ感覚を堪能しながら体はどんどん黒くなっていく。


「父さん母さんようやく罪を償えるよ、そしてこんなクソッタレな世の中とはさよならだ」


俺が罪を償うと同時にこの世の不条理さを嘲笑っていると何故か燃えていない扉の窓から炎でよく見えないが複数の赤い光が目に写り、色々なサイレンが耳の中に響き渡るその中にマスコミと思われる人の声も微かに聞こえてきた。


「誰か中にいますか!いたら返事をして下さい!」


そう扉越しで呼びかけられたが俺はそれを無視した。

ガチャガチャと扉が音を立てた、消防士が開けようとしたのだろうが俺が鍵をかけた事で入れないようだった。


 そして燃やされてから数分経った、脚は黒焦げのままだが何故か胴体から上は服が燃えた以外の変化がなく、焼死では死ねる気がしなかった。焼死じゃなくても一酸化炭素中毒で死んでいてもおかしくないのに意識は未だにはっきりしていた。

 俺は初めは喜んで長時間燃やされていたがここまで死ねないと流石に熱さに耐えるのは難しくなり

一旦炎から離れようとまだ火が回っていない2階に足を運ぶ。

2階に着いた時に俺はふと思った。


(あれ?なんで俺歩けたの?あの時燃えて使い物にならなくなったはずなのに)


確かに俺の脚はあの時真っ黒に焦げていた不思議に思って脚を見るとそこにあったのは黒く焦げた脚ではなく、あまり外に出てないせいで白くなったいつもの脚だった。


「どうして……」


これを見て初めに出た感情はさっきまで黒焦げになっていて使い物になるはずのない脚が次見た瞬間いつも通りの脚に戻っていた事に対する恐怖だった。

 その後、別の方法で死のうとした。

包丁で頸動脈を切ってみたり、頭をハンマーで叩いたりと出来ることは全てやった。

それなのに全て失敗し、体はいつも通り健康だった。家中に炎が回ったが燃やされながらさっきの事をしていたため炎に慣れてしまい、炎の中移動する事に熱いなと感じるだけであまり苦に思わなくなった。

そしてどうにかして死ぬ方法を炎の中模索していると突然どこかの部屋から破裂音が家中に鳴り響く。



「何で病院じゃなくて家にいるんだ?」


部長がそう言って目的地を変えずに考えていたから私は彼に対して割と大きめな声で怒鳴る。


「部長!そんなことよりも早く泉君の家に!」


それを聞いた部長はハッとしたような顔をして私に謝罪する。


「あ、あぁ、そうだなそんなこと考えている暇はないな」


そう言うとナビの目的地を泉君の家へと変えてナビが案内する通りに進み始めた。

目的地を変えて2、3分後くらいに部長の携帯が鳴り響く。部長はハンドルから片手を離して携帯を取り出し、そのまま通話を始めた。


「もしもし、こちら特殊捜査部の未松です……え?こっちにこい!?小坂も?はい、はい、ですが……分かりました。ですが20分だけ時間を貰えると…ありがとうございます。それでは」


通話を終えた部長は難しそうな顔をしていた。


「すまんが川崎、さっき代表から俺と小坂が呼び出された」


それを聞いた小坂は目を丸くしていた。


「僕もですか!?」

「あぁ、そうだ、だから俺と小坂は事件現場にはいけない。だが少しだけ時間を貰ったから川崎をそこまで送るから、後は頼んだ」


私はそれを聞くと今まで感じたことのないような緊張が体に走る。私はそれを解すためにゆっくりと深呼吸をして落ち着いた声で「はい」と返事をした。

 そしてしばらくして見たことのある現場付近の光景が見えてきた時、部長が「あ!」と声をあげながら何故か納得していた。


「どうしたんですか」


私はそれが気になって聞くと部長は何か悩みが晴れたような顔で説明する。


「泉君が家にいる理由がわかったんだよ」

「いや、それは窓から飛び降りたんですよ」


部長が小学生でも分かりそうなことを今更分かったと言っていると思って軽蔑の眼差しを送った。


「そっちじゃなくて。いやね俺は初め生きるのが辛いという理由でそのまま病院で自殺すると思っていて窓から飛び降りて脱走とかはないと踏んでいたけど何故か脱走して家にいるだろ。死ぬためにわざわざ抜け出してまで家にいるのかなと思ったんだよ」

「確かにそれは謎ですね」


小坂が言ったような事を思っていると部長が言葉を続ける。


「でだそこで俺が行きついた答えがおそらくだがきっとあの事件が起きたのは自分のせいだと考えているんだろう、自分のせいで両親は死んだと考えてその贖罪のために両親の霊がいそうな我が家で死ぬ事で両親に自分の死ぬ姿を見てもらい許してもらうというのが俺の考えだ」


部長はこの考えを確信しているのかとても自慢気に話していた。

正直この話を聞いてそんなわけないと思ったあの事件で悪いのは犯人で何も悪くない被害者の泉君が罪を償う必要は考えられなかったが部長に指摘された事を思い出して、もしかしたらの可能性にそれを入れておいた。

そして部長の話について少し考えていると現場に辿り着いた。

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