第14話 呪われた体

 俺が玄関の扉を開けると学校に行くときに俺を見送り、帰ってきたときには出迎えてくれた母さんの姿がそして仕事に行き、帰ってきた父さんの姿が俺の頭に蘇る。家の中に入ると死体がなくなっただけであの澱んだ空気と死の臭いは未だ充満していた、この空気を吸うと事件当時の記憶がフラッシュバックする。


「本当に信じられないな、こんな悪夢みたいな出来事が現実だなんてさ」


そう独り言をぼやきながらリビングへと足を運ぶ。

リビングの扉を開けるといつものように家族でご飯を食べたりテレビを見たり談笑したりと当たり前だった平和な記憶が蘇る。この記憶のようなただ同じことを繰り返すような無意味と思えるような日常を永遠と送りたかったと心底思った。


(だけどこの日常を奪ったのは俺だ。俺が今ここで罪を償わないと)


リビングの中は二人の遺体がないが周りに付着した血痕を見るとここの現場を見た時の光景を思い出す。それはさらに俺の自殺願望を加速させる。


「本当にごめんなさい。俺があの時父さんの話を聞いていればこんなことには、ごめんなさい ごめんなさい ごめんなさい。許してくれないかもしれないけど俺の命をもって償うから、許してくれ」


俺は許しを乞うと道中買ったロープと自分の近くにあった椅子を持ってきてロープを天井にぶら下げ、椅子の上に立ちロープの輪になっているところに首を入れた。そして椅子を蹴飛ばそうと足を上にあげ振り下ろしたが当たる直前で足が止まる。


(なんで蹴れない)


――死にたくない――


違う


――死にたくない――


違う


――生きたい――


そんなものは俺の意思じゃない。

俺は死にたいんだ!


そして俺は死を拒む思考と椅子を蹴り飛ばす。

一瞬だけ浮遊感を感じたがそれも束の間、すぐに首がロープで締め上げられた。

そこで俺は死を悟った。


(さようなら)


…………………………

………………………

……………………

…………………

………………

…………

……


(あれ?全く苦しくない)


確かに首は絞められているはずなのに一向に苦しくなる気配がなかった。


(何で死ねない?何で、何で、何で)


死ねない事に疑問を持ったと同時に少し安心しているような自分がいたがそんな事は気にも止めずひたすら首に体重をかける事を意識し続けた。

 そのまま数分間、空中で揺れているとロープがブチブチと嫌な音を立て始めた。


(まさかロープが切れ)


次の瞬間、大きくブチッという音が鳴りロープが千切れ俺は床に尻もちをついた。

俺は結局死ねなかった。


(何でだ、どうして、普通もう窒息死してるはずだ)


そう疑問に思っているとなんだか扉の隙間から見える廊下が電気を点けてないのに異様に明るいため出るとそこは火の海だった。


 私達は病院を出て部長の車で事務所に戻る予定だがその前に近くのコンビニに寄ってそれぞれ適当な軽食を買って食べながら車に揺られていた。

 私は野菜サンドを頬張りながら部長に尋ねる。


「泉君の言った楽に死ねる方法を教えて下さいってどういう事ですかね?」

「いや、どういう意味も何もそのままだろ」


部長が運転座席からガムを食べながら何言ってんだこいつという目で私を見ながら返してきた、もちろん私が言っていたのはそういう事ではない。


「私が言ったのはそういう事じゃなくて、何でそんな事聞いたんだろ的な意味ですよ」

「あーそっちね」


部長はどうでも良さそうな口調で納得した、本当に何でこの人が部長なのかはなはだ疑問に思う、あの時は冗談で言ったけど本当に冷蔵庫の中のプリンの中身納豆に変えようかなと考えていた。


「やっぱり自殺じゃないかな」


そう小坂が明太おにぎりを食べながら意見を出す。

私も小坂と同じ考えだった。


「だろうな、もうあの質問自体が答えみたいなもんだ」

「ですよね」


やはり部長も同じ考えだった。だけど何故彼が自殺する事を考えたのか、そこに引っかかった。


「だけど何で自殺を考えてしまうのかが分からないです。確かに両親を失った悲しみはとてつもないものですが、両親を殺した犯人に対しての憎しみでそれどころではない気が」


部長はため息を吐きながら私の考えに注意を入れる。


「あのな、それはお前の主観的な考えだ」

「それがどうかしたんですか?」


部長は握っていたハンドルの片方の手を離して頭を抱えながらまた、ため息を吐いた。


「人はお前の想像通りに動くわけじゃない、寧ろ想像通りに動くことの方が珍しいぐらいだ。前から何度も言っているだろお前は自分の立場で考えるのではなくて相手の立場になって考えろって」


部長によく言われることだ、私は昔から自分の考えることに何の疑いも持たないがために自分ならこうするそれならなら相手もこうするだろうと勝手に結論づけてしまう。悪い癖なのは分かっているが、こればかりは治る気がしない。


「部長はどういう風に考えているんですか?」


私が自分の悪いくせに悩んでいると小坂が部長に聞いた。


「俺も何で自殺に行き着いたかは分からないがおそらくだが犯人の資料を渡す前と後でかなり変化があったからきっと犯人の資料が関係してるのだろう」


私はその犯人の資料を見ても私が前見た別の無差別殺人犯の資料と違いは見られなかった。

小坂も私と一緒に資料を見たがやはりわからない様子だった。


「私は明日、個人的な理由で泉君のとこに行って少し話してきて良いですか?」

「それなら良いけど、あまり事件について深掘りするなよ」

「分かってますよ。彼の心理状況を確認しに行くだけですよ」

「だけどもし自殺するのが今日の夜とかだったらどうしよう」


小坂が心配そうに言うがそれはないと思った、何故ならあそこの病院の廊下には監視カメラが24時間で働いているから病院から抜け出すことは不可能だしもし患者に命の危機が迫ったら警報アラートがなるシステムらしいからそんな事はできるはずがない。


「窓から飛び降りてもあの高さじゃ死ねないしな」


部長も小坂の考えを否定していたがカーナビで流れた速報でこんなものが映し出された。


[速報です。今さっき東京都の外套区、此岸町で火災が発生しました。火は周りの民家には燃え移ってはいませんが出火元である民家の中には16歳の青年がいるようです。また情報が入り次第お伝えします]


「「この民家って!?」」


私と小坂は驚きのあまり声を上げてしまった。何故ならニュースにあった民家とは例の事件現場兼

泉君の家だったのである。

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