第13話 お口チャック
俺の今の運は幸運と呼べるものなのだろう。
だって俺の病室は2階に位置していて窓だってある、高さも見た感じ3、4メートルほどで飛び降りてもそこまで問題はない、鍵もこちら側から自由にできる
もし神様がこの世にいるなら神様が俺の贖罪の手伝いをしているかと思える環境だった。
いつ抜け出すかどうやって死ぬかを考えていると扉をノックする音が鳴る。
「いやー大変でしたね。まさか君が何かの事件に巻き込まれた人だなんて」
入ってきたのは俺の命を助けてくれた医師の男だった。
「テレビとか新聞見ないんですか?」
死人がたくさん出たこの大事件をテレビなどのメディアが使わないわけがないと俺は医師の言葉に疑問を持った。
「もちろん見るけど今日のニュースで殺人事件の話はなかったですよ。それにもしテレビとかで取り扱うほどの事件ならきっと今頃君の病室は人でごった返すはずですよ」
それを聞くと俺は急いで自分のベッドの近くの棚からテレビのリモコンを掴み取り適当なニュース番組をつける。
[今日、清水のこの舞台で、ピッ 火災が ピッ 最近話題の ピッピッピッピッ……]
どの番組を観ても外套区連続殺人事件に関する報道が一個も見つからなかった。何度付け替えても少し時間を置いてから見ても映るのはスポーツとかスイーツなどのどうでもいいものばかりだった。
「何で報道されてないんだよ、だってあれ程の事件だぞ、死者だってたくさん出たんだぞ。こういう時こそマスコミの出番だろ」
俺の声は悔しさに染まり、俺はテレビの前で届くわけがないマスコミに必死に伝えろと言いづける。
「どうしたんですか?一旦落ち着いて」
医師はひたすらテレビに訴え続ける俺を宥めた、そして落ち着きを取り戻した俺は医師に事のあらましを伝えようとした。
「実は僕外套区連続、がぎ、あ、え」
だがその瞬間口がまともに動けなくなり話せなくなった。医師が心配そうな目で俺を見る、俺は何度も話そうとしたが口が誰かに押さえられているように動かなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
「あれ?何で喋れないんだ。だったらあの紙とペン貸して下さい」
話す事が無理なら書いて伝えればと思い医師にボールペンとノートを借りて話そうとしていたことを書こうとすると。
[僕は外套区連続〜…03:6あやひわらむかは]
連続まで書いて続きを書こうとすると腕が意思に反して勝手に動き意味のわからない数字や記号などを書き始めた。
「何で書くことも出来ないんだ」
俺は悔しさともどかしさで気づいたらペンを折るような力で握りしめていた。
これはまるで誰かが絶対にこの事件についての情報を世間に知られないようにしているようだった。
俺は書くことを諦め、医師を見ると心配そうに俺を見ていたので内心焦っているが平静を装いながら俺は誤魔化した。
「すいません、忘れてしまったようです」
流石にあの意味のわからない言葉を言ったり、文字を書いたりした事を忘れたで済ますのは無理があると思った、精神科医とかに検査されるかもしれないと考えたがどうやらそれは杞憂だったようだ。
「そうですか、また思い出したら教えて下さい」
医師は温かみを感じる優しい笑顔でそう答えた。
俺はこの笑顔を見て、嘘をついた事に少し罪悪感を覚えた。
「はい…」
その後医師と10分ぐらい適当な雑談し、医師が仕事があるからとどこかに行って、特に何もする事なく枕に頭を乗せ、白と少しの汚れが見える無機質な天井を眺めているといつの間にか空の支配権が月になっていた。俺が病院で目を覚ましたのが昼だったので1日がすぎる速さに驚きながら窓を開けて下を確認する。
「よし、誰もいないな」
俺は確認が済むと窓から飛び降りた。空中にいる時間は一瞬で、気づいたら地面に足を付けていた。
飛び降りる前に痛みとかを覚悟して飛び降りたが痛みは一切なく感覚的には階段の4段目から飛び降りたぐらいの感じだった、その事を少し不思議に思ったがすぐにその思考を捨て、すぐにスマホを取り出して道を確認した。
俺がいた病院はビルのような構造で、その近くの道路には大量の車が走っていて、どこを見ても何かしらの店があった、俺がいつも使う風邪とかの軽い病気を診るような病院の周りは車は走ってはいるがここの半分以下で周りには住宅街が広がっていて、病院の規模の違いを見せつけられた気分だった。
俺に優しく接してくれた医師には申し訳ないと思いながら俺は歩き始める。
歩き始めてしばらくすると見たことのある住宅街にたどり着いた。
「やっと道がわかるところまで来たぞ」
俺はこの景色を見て寂しい気持ちになった。
「この景色がみれるのも今日で最後か」
寂しさに浸って歩いていると瀧の家が見えてきた。
「お前には何回か嫉妬してたけど今日で最後か、さようなら俺の初めての友達」
瀧の家を見ていると瀧を含めた色々な人との思い出が脳裏を過ぎる、幼稚園、小学生、中学生、高校生の時とどんどんと俺の頭の中に湧き出てくる。
――死にたくない――
俺はハッとした懐かしい記憶を見ているうちに死への恐怖か、はたまた現世での未練かは分からないが一瞬だけ死を拒んでしまった。今まで軽かった足が少しだけ重くなるのを感じながら俺は家を目指した。
そして懐かしの我が家に、悪夢の我が家へとたどり着いた、家の前で微笑みながら語りかける。
「ただいま」
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