第12話 非情な現実

 俺は彼らが病室から出ると、貰った外套区無差別殺人事件と題名付けされたファイルの中身を見る、その中には3、4枚ほどの紙が挟んであるだけだった。これには少し驚いた、てっきりドラマやアニメみたいに結構な数はあるものと思い込んでいた。

外套区無差別殺人事件と書かれた紙を1枚めくると

犯人についての資料が載っていた。

その資料には犯人の顔写真が添付されており、俺はそれに視線を移すとそこにあったのは黒色の髪で前髪で目が隠れていて何となく不思議な雰囲気を持つ俺の友達にそっくりだった。


「いや、まさか、そんなはずが」


俺はこれがあいつではないと、きっとただのそっくりさんだとそう信じながら俺は犯人の名前を見る。


[神崎 実   年齢16歳

身長 159㎝  体重 46kg………

………]


俺が見間違えただけかもと何度も何度も見返しても名前も年齢も全て合致、身長や体重も3週間前の体力テストの時とほぼ変わらなかった。


「なんだよこれ、あいつが父さんと母さんを殺し、そして俺を殺そうとしたのか?」


俺の脳は入ってきた情報を処理できずにいた。今俺の中に沸き立つ感情は何なんだろうか?怒りか?悲しみか?驚きか?絶望か?それともこれら全てか?今自分の中に存在する感情はまるで混ざりすぎてよく分からない色になった絵の具のようだった。


「は、はは、ははは」


何故だろうか、別に嬉しくも面白くもないのに笑いが出てきた。これはちょっと前にA tube で言っていた、脳がバグった事で起きる笑いだろうか。止めようと思っても俺の体は笑えと命令し続ける、まるで壊れた機械のように


「は、ははは、あはははは、はははは、はははははは、はははは」


きっと俺がラノベとか漫画の主人公ならここで実に対して復讐を誓うとかするのだろう、だが生憎俺はお話の中の人じゃない、現実に住むただの高校生だ、そんな俺がこの瞬間からいきなり仲のいい友人から復讐の対象に変えろなんざ無理な話である。

 そのため俺の混沌とした感情は本来の行き先を失い、俺を狂ったように笑わせ続ける。

俺は不意にある事を思った


――死にたい――


俺は生き残った幸せよりも家族を失い、友人だった奴に殺されかけた回復する見込みのない心の傷を負ってこれから生きていくぐらいならいっその事死んだ方がマシだと考えたがそれでも俺には死に対する恐怖があったから、そう考えるところで踏みとどまる。

そして資料の下の欄を見ると犯行の動機などが記されている所があった、そこにはこんな事が書かれていた。


[正直誰でもよかった。ただそこにいたから殺そうとした。家族は殺し損ねた少年の胸ポケットから落ちた生徒手帳に住所が記されていたのでついでに殺した]


俺がこれを見て今まで混沌としていた感情が2つにまとまった。

その感情は実に対する怒りと自分のした事による後悔だった。

 俺は犯行動機を読んで実が俺と俺の両親を何の理由もなく殺した事に対して怒りを持ったがそれと同等あるいはそれ以上に強く感じた事はあの時ゼンオタの誘いを断って父さんに言われた通りすぐ帰ればもしかしたら俺は襲われず、2人は死なず、今まで通りの平凡な生活を送れたのではないかと自分の行動を悔やんでいた。


(俺のせいなのか?俺が寄り道をしたからなのか?)


そう心でいるはずのない誰かに問いかけるが当然返ってこない。


(誰が悪いんだ?なぁ教えてくれよ)


また誰かに問いかける、それに返って来るのは酷く冷めた沈黙だった。憎むべき相手を憎む事が出来ない俺は自分自身を憎み始めた。


(あぁ、そうだよな、俺があの時家に帰っていればよかったんだよな。全て俺のせいだ。全て全て全て!)


俺の微かに残った心は天を仰ぐと同時に胸を締め付けるような罪悪感によって全て絞め殺された。

今まで感じてきたものは絶望からくるものだが今は自分の贖罪のために俺は望む


――死にたい――


 すると外にいた3人が病室に入ってきたが川崎さんと小坂さんの表情が俺が最後に見た暗いものではなく何か吹っ切れたような清々しいものだった。


「泉君、待ってもらって済まないけど俺達は一旦帰るわ。そしてまた後日伺うから」


俺は怠平さんの話は俺の思考を支配する思いによって右から左へと抜けていった。そう言ってそれ以外の2人も俺に一礼して顔を上げた時、俺は怠平さんに俺の贖罪を叶える質問をする。


「怠平さん、人間が1番苦痛なく死ねる方法はなんですか?」


それを聞いた2人は驚き固まっていたが怠平さんは何食わぬ顔で返す。


「どうしてそれを聞くんだ?」


ここでもし死にたいからなんて答えたらここで見張られるかもと思ったので俺は逃げた。


「いえ、ふと思っただけです。いきなりおかしな質問をしてすいません。忘れて下さい」

「そうか」


そして3人が俺のベッドから離れ、そのうちの2人が俺の事を心配そうな眼差しで見ながら病室の扉に向かい扉の前でそれぞれが別れの挨拶をする。


「じゃーな、泉君」

「ばいばい泉君」

「それではまた」


そう言って3人が順番に扉から出ていくが最後の怠平さんは出て行く直前に紙飛行機を飛ばした。


「読んでおけよ」


そう言って出ていった。その後その手紙の中に書いてあったのは


[3日後にまた来るわ 追記 あまり抱え込まんほうがいいぞ]


読んでもそれにたいした感情は抱かず明日には死ぬ予定だからどうでもいいやと思って俺は紙飛行機をクシクシャにしてゴミ箱に投げ入れた。

 







 

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