第10話 まだ夢の中

「さて、取り敢えず自己紹介をしましょう。まずは私から、事件の時あったけど改めて初めまして泉 伝持くん。川崎 綾香です。」

「は、初めまして」


次にツーブロの警官が自己紹介をする。


「僕も、改めて初めまして。小坂 異形です。」

「あ、どうも」


最後に性格が180度変わったおっさんがする。


「初めまして、泉君、この2人が勤めている部署の部長をしている、未松 怠平だ。よろしく」

「よろしくお願いします」


それぞれの自己紹介が終わったが何故か川崎さんにだけ異常に緊張してしまう。何故だろう?美しい女性だからだろうか?

そして川崎さんと同じように小坂さんもあまり事件の時は顔を見れなかったが改めてよく見ると凄く整った顔をしていた。

爽やかな顔つきで川崎さんと同じような髪を持ち、更にそれを引き立たせるまるでアクアマリンを埋め込んだ様な目を持った世間一般で言うところの所謂イケメンである。

 人が変わった未松さんはアニメとかにいそうな凄い頼もしいおっさんだった。未松さんは確かにみっともないみてくれだが無精髭とボサボサの髪が絶妙にマッチしてダンディーなおっさんだった。

 そして次は俺の番だ。


「初めまして、泉 伝持です。あの時は助けてくださり、本当にありがとうございました。」


俺は警官達に深々と頭を下げる。俺が頭を上げると川崎さんと小坂さんが微笑んでいた。


「良かった、その言葉が聞けて」

「苦労した甲斐があった」


川崎さんと小坂さんが安心した声色で言う。

 

「よし、自己紹介も終えた事だし、色々聞いていきますか」


怠平さんが締めて自己紹介が終わり、次に俺から事件について質問が始まった。事件の流れだったり何なりと色々聞かれた。そしてふと思い出す。


「あの、犯人は捕まったのですか?」

「うん、捕まったよ」


俺は小坂さんからそれを聞いてあの凶悪犯による事件が起きないことによる安堵と自分をあんな目に合わせた奴への憎しみが出てきた。


「それは良かった、あの、犯人は一体どんな顔なんですか?」

「ちょっと待ってくれ、今バッグから写真の入った資料を出すから」


怠平さんはそう言ったが5分経っても一向に資料は現れなかった。


「あれ?確かここに入れたはずなのに」

「部長、まさか忘れたんですか?」


川崎さんが笑顔で部長を見つめるがその笑顔から感じるのは物凄い圧だった。怠平さんは滝のような汗を流して何かに酷く怯えている様子だった。


「お、おそらく机の上に置きっぱだと思う…」


怠平さんは申し訳なさそうな顔をして川崎さんに言った、彼女はため息を吐きながら言う。


「で、部長どうするんですか?」

「急いで取りに帰る、だからその間彼から色々聞いといて。それじゃ。」


そう言って逃げるようにして病室を出る。小坂さんと川崎さんは呆れた顔をしていた。


「部長らしいっちゃ部長らしいね」

「今度から部長の持ち物チェックでもしようかしら」

「えーと、あの大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。いつもの事ですから」


そう言った川崎さんの目は少し怖かった。


「ま、まぁ取り敢えず部長に言われた通り、事件について色々聞こうか。」

「そうね、部長について考えてたらキリが無いもの」


小坂さんが話を切り替えてくれたおかげで気まずい空気が多少晴れた事で俺は心の中で小坂さんに感謝の念を贈った。

 そして俺への事情聴取が始まった。時間帯や事件までの経緯だったりと色々聞かれ、俺の知りうる限りのことを話した。


「泉君、あなた犯人に何かされた?」

「あー、なんか宝石みたいな物を持たされました」

「その宝石は今持ってるの?」

「いえ、なんか持ってろと言われて持ち続けていたらその宝石が俺の手の中に沈んでいきました」


そう言うと川崎さんからさっきまで雪崩の様に来た質問攻めが止まり、メモを取っていた小坂さんもペンを止めて、二人は話し始めた。1、2分程で話し終え再び俺に質問をする。


「その宝石を持った事で何か体に異常は出た?」

「持った時は何もありませんでしたが、体の中に入った途端、全身を今まで感じたことのない熱さと痛みを感じました」


そう言うとまた二人は話し始めた、小声のためあまりよく聞こえなかったが二人の顔は困っている様な表情だった。


「あの、僕の体何かまずいことがあるんですか?」


二人の顔を見ていると心配になって聞いてしまった。


「いえ、小坂のメモの内容を確認していただけです」

「そうそう、気にしないでくれ」


川崎さんと小坂さんはこう言うが話している時そのメモは閉じていたので明らかに何かを隠している様な感じだった。


「何か隠してます?」

「いえ、何も」


川崎さんと小坂さんはいくら聞いても何も無いと否定し続ける。めんどくさくなった俺は次に話を進める様促した。


「わかりました、何も無いと言う事にしておきましょう」


 二人は一瞬だけホッとした様な表情を見せた。

 そして少しグダッてしまったがその後は特に何事もなく質問は終わった。最後に俺は気になる事を二人に聞いた。


「あの、父さんと母さんは今、どこにいますか?

2人リビングで倒れていたんで心配で」


それを聞いた瞬間二人の顔色が悪くなった。小坂さんが言いにくそうに口を開く。


「君のご両親はね……亡くなったよ」


川崎さんは申し訳なさそうに俯いていた。

俺はそれを聞いて一瞬、頭が真っ白になった。


「はは…小坂さんそんな縁起でもないこと言わないで下さいよ」


震える声で俺は言ったが返ってくるのは、心に突き刺さる様な沈黙だった。

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