第9話 それは喜劇かそれとも悲劇か

 ピ、ピ、ピ

 ドラマやアニメなどであまり良くないシーンで聞こえる機械音が俺の目覚ましだった。

目が覚めると真っ白な天井の光と口に取り付けられた人工呼吸器が見える、次に自分の周囲を見ると様々な機械とその機械と俺の体を繋ぐコードが目に入る。


 すると近くにいた看護師が俺が目が覚めたのに気づいて医者を呼びに行く。

約1分後、部屋の外からドタドタと慌てて来る足音が近づいてきた。その足音の主は息を切らしながら部屋の扉を開ける、そこにいたのは白衣をまとった、若い男性だった。


「はぁ、はぁ、良かった、泉くん、はぁ、やっと目が、覚めたんだね」

「は、はい、あの大丈夫ですか?」


患者である俺が心配してしまう程、医者の顔はやつれていた。


「ん?僕の事?僕は…まぁ、多分死にはしないから大丈夫ですよ、それよりも君だよ。どこか体に異常はありますか?」


(マジかこの人、生きてさえいればそれで大丈夫なのか)


そんな事を思いながら自分の体の異常を調べたが、特に目立った異常は感じられなかった。


「特に無いですね」


そう言うと、医者は少し驚いていた。


「君、運がいいですねぇ。僕の予想だと脳に何かしらの障害が残ってしまうと思っていたんですけど」


俺はその言葉を聞いて一体俺の体に何があったのか気になった。


「あの、俺の体、一体どんな感じだったんですか」

「君の体ね、ここに運ばれた時点で死んでいてもおかしくない状態でした」

「え?」


俺はその言葉に戦慄した。医者は話を続ける。


「君はここに運ばれた時、呼吸は完全に停止、心臓だって何度か止まっていました。」

「マジですか…」


言われた事が凄すぎてそれ以上は何も言えなかった。


「その後は色々な機械を君の体に取り付けて、ひたすら心肺蘇生をし続けたけど、でも君なかなか脈拍が安定しなくて苦労しましたよ」


俺の今の心の中は生きている事に対する感動と、医師に対する深い感謝しかなかった。


「本当に、ありがとうございます」


俺は医師に深く頭を下げて感謝を述べる

医師は微笑みながら言う。


「感謝される筋合いは無いですよ、僕は僕の役割を全うしただけですから」


この人は聖人君主なのかと勘違いしてしまうような返答が返ってきた。

 そして体に特に深刻な問題が見られなかったので取り付けられた機械などを外され、後日精密検査をするという事でその日程を話していると扉を開ける音と三つの足跡が俺らの声に混じって鳴り響く。


 入ってきた3人は全員スーツで身を固めた人達でそのうちの2人は事件の時に俺を助けてくれた警官だったがあと1人は見た事ない人だった。その人は無精髭を生やし、いかにもやる気の無さそうな目をし、髪がボサボサの30代ぐらいの男であった。いきなり入ってきた3人に医師は尋ねる。


「あの、どちら様で?」


髪がボサボサの男がポケットから何かを取り出してそれを力の抜けているような口調で見せる。


「えーと、あ、あったあった、警察です」


そう言って見せたのは警察手帳だった。その後、2人の警官が男に向かって注意する。


「部長、一応、僕達の守るべき国民の前ですからもっとしっかりしてください」

「小坂の言う通りですよ、部長。次そんな態度をしたら冷蔵庫にあるプリンの中身全部納豆に変えますよ」


その男はそれを聞いた瞬間、一瞬顔色が悪くなった。

その後さっきとは打って変わって少し猫背気味の背中が真っ直ぐに伸び、だるそうな目からやる気に満ち溢れた目になった。


「よし、それでは、泉君に事件について聞きたいと思うが、その前に」


そう言うと医師の方に近づいた。


「申し訳ないが、今から事件についての話をするので少しの間席を外してもらいたい」


さっきの気の抜けた喋り方ではなく力ある声で医師に退室を促した。もしこの時俺が医師なら多分あまりの変わりように、いやお前誰やねんとツッコんでいただろう。

 そして医師が部屋から出た。


「見た感じ大丈夫そうで良かった」


ポニーテールの警官が俺の顔を見ながら安心した表情をした。事件の時はあまり顔をまじまじと見る余裕がなかったが改めて見るとかなり美人だった。身長は俺と大差なく、ブラックダイヤモンドのような思わず吸い込まれてしまいそうな美しく輝く黒色のつり目を持ち、艶のある綺麗な黒髪を持っていた。思わず彼女の美貌に見惚れていると、ボーっとしてる俺を心配したのか彼女は俺に呼びかける。


「おーい、泉君。おーい聞こえてるー?」


その声では俺は我に帰った。


「大丈夫?」


彼女は心配そうな声を出しながら顔を近づけて来る。その瞬間鼻腔をくすぐる甘い香りと眼前にある美しい顔で俺の心臓は破裂しそうになった。


「あ、は、はい、少しボーッとしてただけです。はい」


それを聞いて安心したのか彼女は俺から顔を離したが俺の心臓は未だにうるさかった。

そしてそのままそれぞれの自己紹介が始まった。

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