第8話 人間卒業

「んー、んー!」


全身を襲う痛みと熱さに口を塞がれながら悶えていると口を塞がれたまま俺は後方へと投げられた。


「10分後にまた外に出す」


奴がそう言ったのを最後に俺の視界は闇に染まり、次に俺の視界に写るのは何も無いただひたすらに真っ暗で音が一切無い謎の空間だった。


 俺は一瞬だけその空間を不思議に思ったが、謎の空間に入って間もなくまたさっきの感覚が蘇る。


「痛い痛い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い熱い痛い熱い痛い痛い熱い熱い痛い痛い熱い熱い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い熱い痛い熱い痛い痛い熱い熱い痛い痛い熱い熱い痛い熱い熱い痛いぃ゛ぃ゛ぃ゛」


………………

……………

………

……


 あれからどれくらい経っただろうか奴は10分で出すと言っていたが俺の中ではもう何時間も経過した気分だった。それでも未だにあの感覚は残っているが叫びすぎて喉が潰れて叫ぶことが出来ず、只ひたすら心の中で絶叫する。


痛い熱い痛い痛い痛い熱い痛い熱い熱い痛い痛い痛い痛い熱い痛い痛い痛い熱い痛い熱い熱い痛い痛い痛い…?


 俺がもういっその事殺して欲しいと思えるような地獄に耐え続けていると、突如としてさっきまで俺を蝕み続けた痛みと熱さがどんどん和らいでいった。

それと同時に視覚、聴覚、触覚らが薄れていくのを感じ、さらに少し眠くなるのを感じた。


それらの事から俺は自分の死を悟った。だが俺は自分に死が近づいている事に対する恐怖よりもあの地獄の苦痛から解放された事に対する喜びの方が大きかったのか死に対する恐怖は不思議となかった。


(あぁ、やっと終わった。母さん、父さんごめん俺は先に逝くね)


 そして全ての感覚が完全になくなると同時に俺の意識は闇へと沈んだ。



「よいしょっと」


私は飛んで来た少年をキャッチした。少年は呼吸が停止しており、心臓もほぼ止まっていて急いで病院で治療を受けないと死ぬような状態だった。


「小坂、私はこの子の応急処置をする為に外に出るからあいつの相手をお願い」

「わかった」


そして私が少年を抱え屋根裏から出ようと振り向くと目の前に奴がいた。奴は私をナイフで切りつけようとしたが私は一歩引いてそれを躱す。


「依頼内容は確実にこなす、だからお前らをここから出すわけにはいかない」


奴が一切の声色を変えずに私達に言い放つとナイフを両手に持って私に襲い掛かる。私は横に飛んでそれを避け、素早く奴の後ろに回り込んで小坂に言う。


「小坂、後は頼んだ!」


小坂は頼り甲斐のある笑みを見せながら頷く、そして風船が割れたような音が鳴ると同時に奴は小坂のいる方に吹き飛びある程度奴が彼に近づいた所で私と彼らを隔てる壁が作り出された。その時わずかに見えた奴の目は私を親の仇であるかのように睨んでいた。

 

私は少年を抱えて入ってきた穴から屋根裏を出てリビングにいる鑑識には目もくれず玄関の扉を開けて外にいる警官等に呼びかける。


「急いで救急車を!後パトカーの中にあるAEDを取ってきて!早く!」

「「「は、はい!」」」


私の圧に一瞬、驚く素振りを見せたが直ぐに切り替えて各々が少年を助ける為に動き始める。私は少年の心肺蘇生を試みる、何度も何度も胸を強く押して押して押し続ける。少年が目を開ける事を祈りながら何度も何度も何度も押し続ける。


「君だけでも救ってみせる」

「AED持ってきました!」

「直ぐにAEDをセットしろ!」


持ってきた警官がセットし電気ショックを流す、そしてまた胸を押し続ける、延々とそれを繰り返す。だが何度やっても少年は目覚めなかった。それでも今の私に出来る事は胸を押す事と目が覚める事を祈るしか出来ない。


「お願いだ、目を覚まして…」


 そして心肺蘇生をし続ける事、数分、少年が目を覚ます事はなく、サイレンを鳴らしながら救急車が来た。中から出てきた救助隊が少年を救急車に運んで行く。

私は担架に乗せられた少年について行くと家の敷地の外に出た、近隣住民、マスコミに何があったのか聞かれたが私は歯痒い思いをしながらそれを無視して少年について行く。


救急車が少年を乗せて病院に向かう、私はまた近隣住民やマスコミの質問に一切耳を貸さずに家の敷地に入る。

 私は小坂を待っている間、鑑識と一階の調査をしていると少年の両親の遺体を調べていた鑑識が血痕が付いているスマホを持ってきた。


「あの、父親のズボンの左ポケットから暗号らしきものが書かれたスマホが見つかりました。あと母親の胸ポケットから何かが録音されたボイスレコーダーが」

「そのボイスレコーダーは聞けるの?」

「いや、その録音された音声を聴こうとするとパスワードを要求されるんですよ」



そう言って鑑識が出したボイスレコーダーは形はよくあるような黒色の直方体の形をした物だった。


「よく見る形のやつね。これならパソコンで解析すればロック解除出来そうじゃない?」


そう言うと鑑識は難しそうな顔をして首を捻る。


「私も初めはそう思って内部を少し覗こうとしたのですが、別機器からのアクセスを徹底的に遮断しているんですよね」

「それで解析は不能と、となると出てきたスマホの暗号がそれのパスワードだからそれを解くしかないと」

「そういうことです」


そう言うと鑑識は易々とパスコードを解除しスマホのホーム画面を開いた。


「パスコード、なんで分かったの?」

「パスコードが書かれたメモ用紙が同じ場所に入っていたので」

「へー、それで何が書いてあったの?」

「はい、これなんですが」


[AEK101SIGSG552AK.47Tiger.1KelTecP32L1A1AUG.A2 1939.1945]


そのスマホに映し出された暗号はアルファベットと数字で書かれたものだった。意味がわからなくて頭を抱えていると勝利の雄叫びが飛んでくる。


「犯人確保ーー!」


その雄叫びが聞こえた瞬間、この事件に一区切りついたからかそれとも小坂が無事だったからかわからないが、なんとなく皆のの空気が軽くなるのを感じた。





 

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