第7話 終わらない悪夢

 俺が宝石を持ち始めて数分が経過すると掌にあった宝石がゆっくりと沈んでいく。


俺はそれを見た瞬間沈んでいく宝石を引き抜こうとした、すると奴が俺の腕を掴んでそれを止め今までの中性的な声とは打って変わってまるでヤクザのようなドスの効いた声で囁く。


「余計なことはするな」


フードで目が見えないのに睨まれている気がするような圧を感じた。


「は、ひゃい!」


恐怖の余り言葉が少しおかしくなり、涙と鼻水がが止めどなく流れ落ちる、とても滑稽な姿だが今の俺にはこの情けない姿を気にする余裕など、この恐怖の前には存在しなかった。


 そして宝石が完全に俺の掌に沈むと突然、体内で焼かれているような痛みと熱さが俺を襲う。俺はその痛みと熱さに耐えきれず思わず声を出してしまう。

 

「あ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!あづい、いだい、あづい、いだいぃぃ、あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!あづ、んーんー」


俺が痛みに悶えながら絶叫すると奴は俺の口を塞ぎながら、驚いた口調で呟く。


「今までとは違う反応だなぁ、もしかしてこいつが適合者か?」


だがこの激痛の前ではそんな事は道に落ちている小石のようなものだった。


 私達は効率よく探すために私が一階を見て小坂が二階を見るというふうに二手に分かれて行動した。

そして私は一階を細かいところまで見たが彼は見つからなかった。私はトランシーバーを取り出し小坂にその事を伝える。


「小坂、一階にはいなかったわ」


その返事は驚きに染まっていた。


「え、嘘だろ一階もいないのかよ」

「一階にもって事は二階にもいないのね」

「さて、これからどうするか…」


二人でどうするか考えていると上から男の叫び声が聞こえてきた。


「小坂、聞こえた?」

「あぁ聞こえた」

「この声二階から?」

「いや、多分その上だ」

「もしかして屋根裏か?」

「おそらくは」


私は二階に向かい小坂と合流した。


「屋根裏っていう選択肢はなかった」

「そうね、私も頭から抜けていたわ。それで屋根裏にどうやって行く?」

「まぁ、入口探すと時間かかりそうだし、強行突破するか」


小坂がそう言うと廊下の天井に縦長な穴が空き、その穴から天井へと繋がる坂道が現れた。

 

「行くわよ」

「あぁ、絶対にあの子を助けるぞ」


 私達は覚悟を決め坂道を駆け上がる。


 屋根裏は特に明かりになるものがなく真っ暗で強いて挙げるなら天窓から照らされる月明りのみである。

小坂と私は銃を構えながら警戒し辺りを見回していると天窓の奥から玄関であの子を連れ去ろうとした、フードを被った人間が月明りに照らされ姿を現した。その瞬間小坂がそいつに銃を向け、問う。


「あの子はどこだ?おとなしくこちらに渡してくれれば野暮なことはしない」


彼の声色は明らかに奴を威圧していた。そして奴は何も言わずに奴の隣にできた鉛筆で黒く塗りつぶしたような真っ黒な円から目から光が消え口を半開きにして涎を垂らして傍から見ると廃人になった少年が床に置かれた。


「貴様、その子に何をした」


彼は奴に静かな怒りをあらわにした。

私は怒りのあまり奴に殴りかかろうとすると小坂が私の右肩を掴みそれを止める。


「待て、今出たらあの子が何されるか分からない」

「で、でもあの子が」

「焦るな、落ち着け、部長によく言われただろ焦ったら出来るものも出来なくなるって」


それを聞いて私の沸騰した頭は落ち着きを取り戻した。


「よし、落ち着いたな。ではあの子を助ける為の策を今から話すからよく聞けよ」


奴の動きが心配だったが奴は私達よりも少年の方に興味津々なのさこちらを一切見なかった。

その隙に彼のいう作戦を聞いた。そしてその作戦はうまくいけば誰も傷つかないものだが失敗すればあの子の救出が今よりも難しくなるものだった。


「確かにそれなら救出できる可能性はあるけど、失敗したら・・・」

「今はほかの作戦を考えるなんて悠長なことはしてられない」

「えぇ・・そうね」


私は渋々納得した。そして私たちは作戦を決行する。

 そして話が終わり作戦を決行しようとしても奴はまだ少年の身体を観察していた。彼が奴の注意を引く為に話しかける。


「なぁ、もう一度聞く、お前はその子になにをした?」


その瞬間私は奴にバレないように能力を発動した。

奴は少年の身体を触るのをやめてめんどくさそうに彼の問いに答える。


「答えるつもりはない」

「そうか、なら次だここら一帯で起きた殺人事件はお前がやったのか?」

「あぁ俺がやった」


それを聞くと小坂は奴を見る表情を歪ませた。


「どうして殺した?快楽目的か?」

「仕事だ」

「仕事?お前に人殺しを依頼した人間がいるのか?」

「人殺しを依頼された訳ではないがまぁ、ある依頼はされたかな」

「それは誰だ」

「言うわけないだろう」

「だろうな。次の質問だ。『死生会』この名に聞き覚えはあるか?」


それを聞くと奴の眉は一瞬ピクリと動いたのを私は見逃さなかった。


「いいや、聞いたこともない」

「狸が」


小坂は奴には聞こえないような小声でそう言った。

そして私は準備完了の合図として床に弾丸を落とす。彼はそれに気づいて奴に言う。


「残念だが俺とお前の楽しい会話は終わりのようだ

そして受けた仕事は失敗するようだぞ」


奴は疑問が混じった声色で返す。


「なにを言っているんだ」


すると少年の背後から風船が破裂するような音が鳴り、音が鳴ると同時に私たちの方へと飛んでくる。


 

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