第4話 崩壊

 俺は一旦家に帰り、親を連れてくると警官に言って、パトカーの扉を勢いよく開け、玄関の扉まで走りドアノブに触れた。

その瞬間、全身に悪寒が駆け巡る、まるで体がこのドアを開けてはならないと危険信号を出しているようだったが早く母さんと父さんの顔が見たいが為に危険信号を無視してドアを引く。

 ドアが開いた時、俺はふと1つ疑問に思った。


(あれ?そういえば俺、鍵開けたっけ?)


 普段ならこの時間帯だと鍵を開けっぱなしなんて事はあるはずがないのにそのドアは引いたら簡単に開いたのである。

でも俺は父さん達は俺の帰って来るのを信じて開けていたのかもなと楽観的に考えていた。


そして玄関に一歩足を入れる、家の中は真っ暗で電気が付いていなかった。

 俺の事を帰りを待ってくれるならどこか電気が付いている部屋があると思った。

 そして靴を脱いで廊下に足をつけた瞬間、さっきまで感じていた悪寒が増し、重苦しい空気が俺の体に流れ込むその空気はまるで別世界にいるかと思わせるような代物だった。


明らかに何かがおかしいと感じた。この異変を恐ろしく感じたのか廊下に乗せた足が玄関に戻ってしまう。俺は恐怖を無理矢理抑え込み、再び足を乗せて父さん達に自分が帰った事を知らせる為、この得体のしれない恐怖を紛らわす為に家中に響き渡るような声を放つ。


「ただいまーー!」


 しかしそれに帰ってくるのは沈黙だった。

もう一度やっても同じ結果だった。怖くて仕方なかったが二人の様子を確認する為に、まず1番近いリビングから順に部屋を見ていこうとする。


リビングに向かう為に廊下を歩くのだがいつもなら聞こえないはずの木の軋むような音が聞こえてきたり、背後に誰かいると思い後ろを何度か振り返ったりと、まるでホラーゲームの主人公になった気分だった。


ホラー系がダメな俺からしたらこの時点で家から出たいという感情に押しつぶされそうだった、10歩もいらない短い廊下が先の見えないトンネルのように長く感じる。

 やっとの思いでリビングの前まで着くと、リビングの扉の前で自分の靴下が濡れた。

 

「うわ、最悪、母さんか父さん、ここに何かこぼしてそのままにしたのか?」


 急いでその靴下を脱ぎ、それを顔に近づけると、暗くてよく見えなかったがその靴下は鉄臭いことだけは分かった。

 

「これってもしかして、血か!?」


 俺は頭がだいぶ混乱していたがこれはきっと自分の足に血以外の鉄臭い何かが付いたと自分に言い聞かせてなんとか冷静さを保とうとする。


 鉄臭い液体の事を考えるのをやめ、リビングの前に立つと違う、違うという何か不満げな声がリビングから聞こえてきた。

その声は聞いた事がなかった、誰か知らない人がいるのかと思いリビングのドアを開けようとドアノブに手を触れようとした時得体の知れない気持ち悪さを感じ腕を引いてしまう、まるで体がこのドアノブに触れる事を拒否しているようだった。


だがいつかは開けないといけないと考え、自分の体から出る危険信号を無視し深く深呼吸をし、俺は意を決してドアを開ける。

 ドアを開けると生臭い臭いが鼻を突き刺し、ガタッという音が耳を通り抜ける。暗くて中の様子がよく分からないため部屋の電気を点けた。

俺の視界に映し出された光景は地獄絵図という言葉をそのまま具現化したようなものだった。


 父さんと母さんはリビングのカーペットに傷だらけの状態で倒れ誰が見ても死んでいる事が明らかで、ベージュのカーペットは血で赤く染まり、周りの家具には血が飛び散った痕があった。

 

「え?」


その惨状を見て俺の脳が俺の精神を保つ為に働き始める。

 

(まだ、父さんと母さんが死んだという事は確定していない、きっとあの血は2人のではないし、まず血ではないのかもしれない。きっとそうだ、そうに違いない、きっと、きっと)


いわゆる現実逃避という奴だ、俺は今見たこの景色を全て自分の都合の良いように変え始める。


俺は自分の中では2人はまだ死んでいるかわからないのでそれを確かめる為にリビングに入ろうとしたが、脚が動かない。


リビングに行こうという決意はあるが俺の中に映る朧げな本当の現実が俺の身体を縛り付けるがその現実は瞬く間に偽物に飲み込まれる。


そしてリビングに踏み込もうとした時、すっかり存在を忘れていた警察官の2人が家に入り、玄関からリビングの前にいる俺に声をかける。

 

「どうした?お母さんとお父さんと話すのが怖いのか?」


 俺はその声を聞いてリビングに入りかけた脚を止め、警察官に助けを求めた。


「あの…僕と一緒にリビングを確認してくれませんか?」


 そう言うと警察官は不思議そうな顔をしてこちらに向かってきた。


「どうした?何かあったのか?」

「あの…リビングに父さんと母さんが倒れていてそれに血が…」


 俺がそう発すると顔色を変え、すぐにトランシーバーと思われるものを出し、どこかと連絡を取っていた。

 もう1人の警察官は中の様子を確認した瞬間、顔が真っ青になり、トランシーバーを使い終わった警察官に言う。


「まずい、これはただの殺人事件じゃない、最近ここらで起きているインフェクターによる事件のの可能性が高い、俺達では対処できない」

「わかった、至急、特殊捜査部に応援を求める」


 俺には何一つ理解できない話で混乱していると2人の警察官に直ぐに外に出るように言われた。

 何もわからない状態なのでここは警察である2人の言葉に従う方がいいなと思い俺は玄関に向かって歩き出す。

もしここに未来の自分がいたら助言していただろう、逃げるなと。

 

 


 

  

 

 

 

 


 

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