第3話 危機一髪
その刹那ヒュンという風を切る音が俺の耳に鳴り響く。
(ヤバいヤバいヤバい、確実に殺しにきとるよあれ)
今のしゃがんだ状態から走り始めても間に合わないと思い、俺はナイフを振った事で少し隙ができた奴の足を払うと奴は体勢を崩し倒れた。俺はその隙に急いで立ち上がり必死の思いで走った。
火事場の馬鹿力というのだろうか俺は今までに走った事のないような速度で一切振り返らずに走り続けた。
そして数分後走りながら後ろを振り向くと誰もいなかった。さっきみたいにいきなり前にいるかと思い、前を向いても誰もいなかった。逃げ切った事が分かると体から魂が抜けたように全身から力が抜けて膝を落とした。
俺の身体はおそらく限界なのだろう、呼吸が今まで経験した事ないほど荒く、心臓の音がしばらく耳を支配し続け足が石にでもなったかのように動かなかった、頭の中で考えられるのは疲れた以外に何もなかった。
少しして話せるレベルにまで体力が回復すると俺は警察に通報した。
すると女性の警察官が電話に出る。
「緊急電話110番です。事件ですか?事故ですか?」
「知らない人にナイフで襲われました。早く助けて下さい」
あんな事が起きてから少し経っているがそれでもやはり生命の危機に瀕した状況にあった俺は早く安全になりたいという願望からか焦りが混じったような声で喋っていた。
「分かりました。落ち着いてこちらの質問に答えて下さい」
「わかりました」
「それはいつの出来事ですか?」
「ついさっきのことです」
「襲われた場所はどこか分かりますか?」
「外套市、木田町の………」
(木田町?何か聞いたことあるな、ん、待て木田町、あ!今日ニュースで殺人事件が起こったって言ってたところだ。あれ、もしかして事件に巻き込まれた?
いや、まさかな)
そんな事が頭をよぎってしまい一瞬ぼーっとしてしまった。
「もしもし、もしもし?」
「あ、すいません少しぼーっとしてしまって」
「それで木田町のどこですか」
「あー、えーと………」
襲われた場所がどこかわからなくて返答に困ってしまった。
「それでは何か目印になるものはありますか?」
「目印ですか、周りには田んぼしかなくて特にそれらしいものはないですね」
「木田町で周りに田んぼしかない場所、おおよそは特定出来ました」
(マジか、すごいな…こんな曖昧な情報でおおよその場所わかるのか)
「犯人の特徴などは分かりますか?」
「確か犯人は1人で性別は顔が見えなくて分からなくて身長170cmぐらい、体型は細身で、何色かは忘れたけどパーカーを着ていました。あと信じてもらえないかもしれませんけど、離れた所からいきなり俺の前に現れました」
「なるほど、逃げた方向はわかりますか?」
「必死に逃げていたらいつの間にか消えていたのでわかりません」
そして後は俺の住所などの個人情報を聞いて、安全の為に俺をパトカーで家まで送ってくれるらしい。
「携帯のGPSで今向かわせるからあなたの携帯の電話番号を教えて下さい」
「わかりました」
警官に教えると数分後に来るそうで、その間、奴が来るかもしれない恐怖に怯えながら周りを数分間、警戒しているとよく聞くサイレンの音が聞こえてくる。
俺はこの音に対して今まで特に何も感じなかったが今日だけはこの音が福音に聞こえた。
そしてパトカーが俺の前で止まり、中にいた警官達2人のうちの1人がパトカーから降り、俺にパトカーに乗るよう促す。
俺が乗るとパトカーは動き出した、俺はその瞬間、やっと助かったんだという安堵の気持ちと殺されかけた事による恐怖が一気に溢れ出し泣いてしまった。
そんな俺の隣に座った警官は宥めるように俺に言う。
「さぞ怖かっただろう、でももう大丈夫、君は家に帰れるよ」
そう言って俺の頭を撫でた。その手はとても温かかった、まるで子を撫でる母親の手の様に温かくそして優しいものだった、そのせいで更に涙が流れ出す。
しばらくして泣き止み、少し気持ちが落ち着き始めると、警官が話し始める。
「落ち着いたか?」
「あぁ、はい、すいません急に泣いたりしてしまって」
「無理もないさ、誰だって命の危機から脱した時はそんな感じだよ。でも俺は君がすごいと思っているよ」
「え?何が凄いんですか?」
特別な事をしてない俺の何が凄いのか見当もつかなかった。
「だって大体の人間がナイフを持った人間に襲われたら基本、恐怖で動けないんだよ。でも君はその恐怖に打ち勝って逃げるという行動に出た事がだよ」
俺はその言葉に少し疑問を持った。
「でもそれって当たり前のことなんじゃ」
「そうだね確かに当たり前のことだ、でもその当たり前は考えの中にある当たり前なんだよ。それをいざ行動に移すのは簡単に見えて意外と難しいんだよ」
その話を聞いても少しピンと来なかったが褒められている事はわかったので、少し照れ臭くなった。
車に揺られる事、数分、運転している警官が俺の方を見て言う。
「もう君の家に着くぞ」
「わかりました」
俺はその言葉を聞いてやっと家に帰れると言う安堵の気持ちと親に叱られるという、心配が入り混じっていた。
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