10.Dead letter

「おーい、まただよ」

郵便配達の男が、郵便局へ持って来た一枚の手紙。

「宛先のない手紙か、これで何通目だ?」

「迷惑だよなぁ、毎日毎日! 子供の悪戯じゃないのはわかってるんだがなぁ」

それは出した本人の名前だけ書いてあり、その文字は大人の文字だとわかるからだ。

だが、その名前は郵便屋の間では嘘の名前だと思い込まれている。

「はぁ、悪戯にしてはしつこいなぁ、中開けて見るか」

「え、でも爆発物だったりして」

「馬鹿! だったら今迄の手紙がとっくに爆発してるだろ。それにこんなペラペラなんだ、中には紙切れしか入ってないだろうよ。なんて書いてあるか、ちょっと読んでみよう。もしかしたら、俺達郵便屋に宛てられてるかもしれないしな」

その言葉に、郵便局で働いている者が、ワラワラと集まって来る。

その手紙に、皆、興味津々なのだ。



Dear.シンバ



今日はシンバの誕生日だね。

あの工場跡地で生まれた事、覚えていますか?

月日が流れるのは早く、俺の弟のシンバはプレジデントとして、自覚も目覚め始め、俺は、アルコンなき今、プレジデントの補佐として、頑張っているよ。

あれから、この国も変わったけど、それでもやはり殺人などの犯罪は堪えない。

それにD.Pと人間が共存する事は、やはり難しい。

PPPも新しく結成され、裏ではD.Pの組織も出来たとか。

シンバの一番の親友であるパインくんは、時々、俺に会いに来てくれます。

彼独特の喋り方で〝ま、軽く考えたらええがな〟と言ってくれるのが、いつも励みになっています。

彼はD.Pの組織には入らず、何でも屋を一人で続けているようです。

D.Pの組織としては何としてでも、パインくんがほしいみたいだけど。

多分、シンバと組んでいるから、組織には入らないんじゃないかな。

ラオシューさんと言うおじさんには参ったよ、もうあれから何年も経つのに、未だに色々と突っ込まれ、聞かれる事ばかり。

ディアくんは、PPP本部で捜査官として、今も頑張っている。

是非、State PPPにならないかと誘ったんだが、国を守るより、国民を守る仕事がしたいと言われたよ。

ベルカくんは、ミラクの大聖堂Peaceでシスターとして人々を導く教えを説いてるよ。

クリスタルの像を皆、崇め、〝The races of the world should live in peace〟世界の全ての民族は幸せに暮らすべきであると願っているよ。

まだ左目はなくて、眼帯をしている。

だけど、明るく笑う彼女は魅力的で、みんなを惹き付ける。

俺も時々、大聖堂には懺悔に向かうんだけど、ベルカくんに見惚れてしまう程、彼女は目にハンデを負っても綺麗だよ。

ヴォルフくん、ウォルクくん、ランくん、ロボくんは、組織と対立して、仕事の奪い合いのようだ。

殺しもしていると噂を聞くが、殺しだけはしないと言う信念も持っているという噂も耳にするよ。

だけど、いつもディアくんに追いかけられてたりするみたいだ。

ランくんとディアくんは相性が悪いのかな。

女同士の喧嘩って怖いよねって思わされるよ。

チゴルくんは相変わらずだよ。

トロイの村で子供達の為に毎日トレジャー探して、エアーファイアーボールLLXっていう大きなバイクに跨って、走り回っているよ。

でも一つ違うのが、彼はもうトレジャーハンターじゃなくなったんだ。

怪盗になったんだよ。

宝石なんかを盗み出しているようだ。

それも悪い事して手に入れた者の宝石を盗み出すから、いい事なのか、悪い事なのかが難しい!

しかもチゴルくんらしく律儀に、盗みに入る前はPPPに予告に入るもんだから、ディアくんの仕事が増えて、やっぱりディアくんに追いかけられてるよ。

エンテさんはStateの科学研究所に入ってもらい、働いてもらっている。

エンテさんの夢である町の中に1軒くらいはD.Pの病院がある国にしたいって言うのも叶うといいなって思ってるんだ。

シンバはあれからどうしてるの?

シンバに最初で最後のプレゼントとなった赤いキャップ帽も、忘れて行ったままだよ。

俺はシンバといろんな話がしたいよ。

この国を変えたのはシンバなんだよ。

国だけじゃない、俺や、みんなの気持ちを変えた。

感謝してる。

だから会いたい。

それはみんなの想いであり、願いだよ。

どうか、この手紙がシンバに届き、俺の元へシンバが笑顔で帰って来ますように。

今日もそう願い、俺達は生きてるよ。



From.リオ=ディップス=スティツ



「ははは、リオ=ディップス=スティツって封筒の嘘の名前と同じじゃないか。そこまでしてStateからの手紙と思わせたいかね、コイツも」

そう言って、皆、笑う中、手紙を読み上げた男の手が小刻みに震えている。

「おい、どうした?」

「こ、これ、ここ、見てみろよ! 手紙の最後の印!」

皆、覗き込み、見ると、そこには剣を間に向かい合った二匹の獅子の紋章が!

シンと静まる。

「おい、これ悪戯じゃないのか? 本当にStateから出された手紙なのか!?」

「シ、シンバって奴に届けた方がいいんじゃないか!? て、手紙開けちゃったけど、だ、大丈夫か、おい!」

郵便局内は騒然となる。



現在、剣は武器として使われていない。

殆んどが銃を武器として扱われている。

国の顔となる紋章には、そう言った武器を表すと戦いや亀裂を意味し、使われないのが普通だが、この国では、二匹の獅子の間に剣がある。

この国では紋章の真ん中にある剣は、戦いを止める平和の意味があるからだ。

それをシンバの剣と言う。

プレジデントの名前が由来だと言われているが、本当の意味は、極一部の者しか知らない。

この国は今日も生者に満ちている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

DEAD OR ALIVE ソメイヨシノ @my_story_collection

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る