第29話 魔法

 ドーラの斜め上から振り下ろすような攻撃にレイはあぶなげなく避ける。



 土が爆発し、砂が上からふりそぞく。



 図体からは思えないような機敏な動きで斧を引き抜くと、体を回転させ引き抜いた勢いのまま、避けたレイを襲う。暴風のような勢い。それは斧という線だけではなく、黄金の鎧という絶対防御を使った防御度外視の面での攻撃。



 レイはその圧力に避けきれないと判断し、横ではなく上へ、足に力をため飛ぶ。ドーラの攻撃は爆音を響かせながら空を切った。



「それは、悪手だ耳長」



 ドーラは、先程と同じようにそのまま斧を地面に叩きつけた。ただ今回は魔力が帯びた斧の魔力が地面を破裂させ、硬い岩の礫をレイに飛ばす。



 レイは身動き取れない空中での攻撃にとっさに体を丸めて衝撃を和らげようとするが、岩が直撃し、吹き飛ばされた。



 ボロボロになった緑色の服は所どころ破れ、肌が露出し、密着した服が内出血で赤く滲んでいる。



 レイは千切れかかっている肩が露出している服を破くと、立ち上がりナイフをドーラに突きつけた。



「ほう、しぶとい。まだ立ち上がるか」



 ドーラは少し関心したようにレイを見る。見るからに満身創痍のレイはナイフを持つのもやっとだという有様だ。



「引導を渡してやる」



 ドーラはそう呟くと斧を構え魔力を込めた。



 レイはそれを見てナイフに魔力を込める。



 お互い武器を構え、視線が交差する。



 両者が駆け出す、その瞬間。二人の間で光が爆発した。



 突然現れた爆発的な光量にドーラはレイに飛びかかるのをやめ、顔を塞ぐ。



 レイはその魔道具を覚えていたのか直視せず、光を見ずに直進しようとした瞬間、火の玉が眼前に迫り、ナイフで切り止まる。



「止まるのじゃレイ」



 アレス、シャル、アーロンはドーラとレイの戦闘に無理矢理割り込むとちょうど二人の間に入るようにそれぞれ武器を構えた。



「記憶を戻ったのかレイ?」



「……」



 レイはナイフをドーラに向ける。



「どいて、そいつ殺せない。邪魔するならあなたも」



 レイの体から魔力が立ち昇った。レイの体から激しく魔力がスパークする。前回の時よりも魔力が上がっている。



「その耳長の言う通りだ。どけ。お前達は後で相手してやる」



 ドーラは斧をぶんと振り上げ、アレス達に向けて威嚇した。



「そういう訳にはいかない。レイくんは、まだ学園の生徒だからなあ。生徒を狙うなら、まずはわしを倒してから挑むとよい」



 アーロンは杖をふる。青白い魔力がアーロンを包み込み、何処からともなくはらはらと雪が舞い落ちる。周辺の温度が急激に下がり、アレス達の吐息が白くなった。



「ほう、氷血のアーロンか。なら貴様ごと粉砕するまで」



 ドーラは黄金のスペルを発動し、よりいっそう輝きを増す。



 ドーラが前へ、アーロンへ間合いを詰め肉薄する。


 斧を後ろへ振りかぶり、力をためアーロンの前へ大きく強く踏み込んだ。



「む?」



 動かない。



 ドーラの動きが止まった。



 ドーラは足元から感じる違和感に下を見る。



 アーロンの魔法によって下から生えた氷がドーラの黄金の鎧と地面を縫い付けていた。



「では、いくぞ」



 アーロンが杖を横にふる。杖は空からふる雪をかき分けて、シャランと鈴の音のようなガラスが割れたような音を響かせながら白い弧をかいた。



 動きの止まったドーラの周りに雪の結晶が取り囲む。その結晶はそれぞれ一つ一つの結晶は細く氷でできた縄のようなものに繋がっていた。



 アーロンは横に振った杖を縦に持ち直すと、トンと地面をつく。



 その音ともに、ドーラを囲んだ結晶は一列ずつ分裂し、縦横と360度交差し、ドーム状の氷の網が完成する。



「黄金の鎧とわしの魔法どちらが勝つか勝負といこうじゃないか」



 アーロンは杖を前に突き出す。



 ドーラを囲んだ氷の結晶が煌めき、一つ一つの結晶の中心部から氷の刺が発射された。ドドドドド凄まじい音を鳴らし、ドーラの体に降り注ぐ。



 その衝撃は凄まじく、氷の刺が黄金の鎧にあたり爆散していく。衝突時に発生した霜でドーラの姿が見えなくなる。





「アーロン学長の魔法は初めて見たが、えぐい魔法じゃのう」



 でたらめすぎるアーロンの魔法の使い方に苦笑いを浮かべると、シャルはレイに向き直る。



「もう一度問う。今のレイはアレスの雑貨屋の前にいたレイかや?それともこの数ヶ月一緒に学園で過ごしたレイなのかや?」



「……」



「だんまりか」



 シャリは「はあ」と一つため息をつくと覚悟を決めたかのようにシャルを睨んだ。



「聞き分けの悪い子は、もう一度お仕置きしないとじゃな」



 シャルは鋭い火花を散らせ燃える鞭を出現させた。




 レイはナイフをしまった。



「この前の、私じゃない」



 レイは自分の胸に手を当てると、魔力が体を包み込む。青白い光は逆再生するかのように、レイの体を完全に修復した。



「なん、じゃと」



 レイはシャルに手のひらをを向ける。



 バチっと雷のスパークする音ともに手のひらに魔力が収束するとその力が一気に解放される。



「なっ!」



 シャルはとっさにアレスを蹴っ飛ばすと、雷をギリギリで避けた。



「……次は外さない」



 避けれたのは完全に偶然だった。レイの動きと魔力の兆候で避けれたものの。次同じように避けれるかはわからない。



 シャルは自分の髪の毛がレイの魔法で少し焦げているのを感じる。今までナイフ一辺倒だったレイが魔法を使ったのだ。威力はシャルの火球を匹敵するほどの力をもち、目にも止まらぬスピードで繰り出される雷の魔法はシャルはジワリと嫌な汗をかく。



 ナイフを主に使うレイだったが、この数ヶ月間学園で魔法を習う事により、本来もっていた魔法の才能と天才的な戦闘のセンスが合わさり、魔法の才能を開花させていた。



「……レイに魔法を習わせたのは失敗だったかのう。アレス下がっておれ!」



 シャルはアレスを守る余裕はないと感じると、アレスを引くようにと伝える。



「うん、わかった」



 アレスはシャルの前に立つ。



「……何をしておる?」



「シャルの前に立ったんだよ」



「それは、わかっておる!今回ばかりはお主を守っておけるほどの余裕はないのじゃ」



「うん、わかってる」



「なら!」



「レイを学園に連れてきたのは俺にも責任がある」



「それは妾が」



「ううん、違うよシャル。それにレイはもう家族同然さ。だから家族が悪い事をしてたら止めなきゃ」



 アレスは引きそうにない硬い意志を感じると、シャルはため息をつき説得することを諦めた。



「危なくなったら逃げるのじゃぞ」



「うん、ありがとう」



 アレスはそういうと魔道具を取り出した。



「……アレス。次は、死んじゃうよ?」



 レイは感情のない目でそう呟いた。



「レイ。君の考えはわからない。でもシャルと俺で君を止める」



「そう」



 レイはアレスとシャルに向けて魔法を放った。

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店にきた剣を買い取ったら、事件に巻き込まれました 賢者 @kennja

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