第28話 ドワーフとエルフ
緑色の服。特徴的な耳にちょっとはねっけのある髪と小柄の姿。
レイだ。
二つの冷たい瞳を顔貌に添えて、稲妻を撒き散らした姿は初めの頃に出会ったあの姿に戻っていた。
「レイ……どうして」
「……」
アレスの言葉に、レイは振り向かない。
ただ、獲物を狩る一匹の狼のよう。鋭いナイフを赤い血で刃を汚し、冷たくドリスを見下ろしていた。
「どりいいいいすううう!!!」
地面が爆発した。
黄金の男、ドーラが戦斧を叩きつけたのだ。
地面がめくり上がり、下から爆発するようにアレスはレイもろとも衝撃で吹き飛ばされる。
「アレス!」
シャルは抱き抱えるように吹き飛ばされたアレスをキャッチした。しかし小柄で押さえ切れなかったのかアーロンが後ろから二人を支えた。
「大丈夫かや?」
「ありがとうシャル。それとアーロン学長も」
「なに、これっくらいお安い御用よ」
見た目ではわからなかったが老人とは思えないほどの芯の入った姿は流石、大戦を生き延びた英雄だと実感した。
砂埃の向こう側から爆裂音が鳴り響く。地面を轟かせ、幾重も赤黒い爆裂と蒼白い閃光が砂の影の中で炸裂した。
砂埃が晴れる。明瞭になった視界がようやく二人を視認することができた。
先程アレスがいた位置には黄金の男ドーラが、その下にはドリスが横たわっている。
そしてアレス達とドーラの間にレイがナイフを構えて立っていた。
「貴様ら、謀ったな」
ドーラがアレス達にぽつり呟いた。
ドリスは心臓を突き刺され絶命していた。手がだらんと地面に落ちている。
アレスは何もいう事ができなかった。どう言い訳しようとレイがドリスが闇討ちしたことは変わらない。この状況を打開するほどの言葉を浮かべる事ができなかった。
「やはりエルフなど、人間など信用ならん!」
ドーラは憤怒の表情で斧を旋回させると、レイに向かって駆け出した。
レイは対抗するように体を低くし獣のような体制を取ると駆け出した。
先手は先に駆け出したドーラだ。凄まじい爆発力をもった斧は上から振り下ろすようにレイに叩きつけた。
レイは直前で足を止め、後ろにステップで下がり、斧を避ける。
ドーラの斧は地面に激突し、凄まじい爆発をおこし、地面をえぐった。
レイは後ろにステップで下がった反動をそのままぐっと足の指に力をいれ体を押し出すようにナイフを突き出す。
ドーラは地面に突き刺さった斧をパッと手を離すとナイフを突き出しているレイの腕を力任せに叩き払った。
レイは想定外の打撃の衝撃で体制を崩す。ドーラはそこ見逃さず隙だらけになった足を強烈なキックをレイの脛を強打する。
レイはあまりの激痛に苦悶に顔をしかめよろめいた所はダメ押しとばかりにドーラは地面に刺さっていた斧を掴むとレイに向かってすくい上げるように、斧をふるう。
レイはそれをわざとコケることで避けたがドーラはそれをわかっていたように、斧の裏側の鉄部分でレイの顔面を強打した。
レイは吹き飛ばされ鼻を押さえる。どうやら折れたようでどくどくと血を流していた。
圧倒的な戦いのセンス。ドーラとレイの戦闘力の差は歴然だった。
「そんなものかエルフ?まだまだ俺は全く力を出し切っていないぞ」
黄金の男から魔力が立ち昇る。痛いほどの気配が、ビリビリとアレス達の方からも伝わってきた。
「まだこんなもんじゃない」
レイは立ち上がると、ナイフを稲妻を絡ませ、疾走する。
アレス達を苦しめた一撃必殺の技。
轟雷を鳴らし、白い軌跡を残し、俊足で一気にドーラとの間合いを詰めるとナイフを突き出した。
ドーラは動かない。ただレイの攻撃を待ち構えているようだった。
閃光が煌めく。レイのナイフはドーラの着る黄金の鎧に激突した。凄まじい閃光を放ち、金属と金属が擦れる嫌な音が鳴る。
しかし、それで終わりだった。徐々に魔力が萎んでいき完全にその勢いは止まる。ナイフはドーラの肉体は貫くことができず、黄金の鎧に完全に阻まれた。
レイは今日初めて感情を動かし、信じられないかのように驚愕に目見開いた。
「何かしたのか?」
「えっ……?」
ドーラは口角をあげると、斧を振り上げレイの体を地面に打ち付けるように叩き潰した。
「かっ……はっ」
「貴様の、そのようなちっぽけなナイフでは我が黄金の砦を崩す事はできぬ」
黄金の鎧はよく見ると、表面に薄らと全身にスペルが刻み込まれているのがわかる。黄金は鎧の金属の色ではなかった。スペルの色の光だったのだ。
ドーラは倒れ突っ伏したレイの首を踏みつける。
「このまま、土にかえれ」
レイの首へドーラは圧力をかけた。
「ぐぅぅぅ」
レイは地面に対して魔力は放った。自分もろとも巻き込む自爆技、雷光が煌めくとレイは自分ごと爆発する。ドーラはとっさに身を翻すと足を退けその雷光を避けた。
自分の魔力で傷つきながらも、ドーラの足から脱出することに成功したレイは片膝をつきながらも幽鬼のようにふらふらと立ち上がり、ナイフを向ける。
「アレス殿どうする?」
アーロンがアレスに問いかける。レイとドーラの戦いはより苛烈差を増している。止めなければどちらか一方が事切れるまで止まらないだろう。
「止める。どちらも」
エルフとドワーフ、有史以前からお互いを戦いあってた二種属。ここで止めなければまた一生憎みあったままだろう。
アレスはドリスを見る。胸から血を流し事切れている。交わしたあの言葉は本物だった。
レイが何故記憶を取り戻したのかがわからない。何故ドリスを攻撃したのか。そもそもレイは何なのかすらアレスはわかっていなかった。
「交渉はうまくいかなかった」
アレスは自分の手のひらに収まる、赤い石が収まったイーグルの剣を見る。
「でも、このままエルフとドワーフが憎みあったまま終わってほしくはない。だから止めないと。シャル、アーロン学長手伝ってください」
「無論じゃ」
シャルが静かに頷いた。
「学園の広場に好き勝手に荒らされては、学長の沽券に関わる。学園の争いは、学長が処理せぬとな」
アレスは二人のその返事頷くと、死闘を繰り広げる二人を視界にとらえ、魔道具を向けた。
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