第20話 夜中の小坊主たち(三)

 警備の僧侶の詰所。

 なぜそんなところへ。

 ゼンコーが問う間も与えず、巻き毛は扉を軽くたたく。

 驚くべきことに、すぐさま入室の許しが返ってきた。


「来たか」


 中にいたのは、昼間見た束ね髪である。


 * *


「失礼いたします」


 巻き毛に続いて、ゼンコーも一礼する。


「どうして、若い綺麗どころが二人連れで忍んで来たのだね」


 束ね髪は、苦笑している。

 と、思えば、


「おれの趣味がよくわかっているじゃないか」


 ゼンコーがぎょっとしたので、二人とも笑い出す。つまり、巻き毛と束ね髪が。


「何を考えたんだ?

 はは、こいつとは因縁があってね、こんな冗談ばかりの間柄だ、心配するな」

「いえ……」


 ぎょっとした自分が照れくさい。

 どれもこれも、副長や女剣士のせいにちがいないのだ。


「約束ですよ」


 巻き毛が、しれっと申した。


「総本山内の見回りが出てあなたが詰所で一人の時に、こうしてまんまと参上出来た。

 その上、剣で勝てば、俺を推薦してくれるって」


 推薦。

 それより、これから闘技が始まるというのか。


「慌てなさんな、まだ小坊主になったばかりだろうよ。剣なんてここでは持たせられない。何年先の話だね。

 ……それに、こうして事情のわからぬ者をかわいそうに、連れて来たのはなぜだね。あらわれるのはひとりで、と言ったはずだ」

「彼が、噂の〈全甲〉ですよ」


 束ね髪が一瞬黙った。


「それはそれは」

「自分が有名人なのを知らないようだから、ちょっと連れまわしてみたくなったんです」

「お前はこの五日間で、頭に浮かんだことを片端からやってのけるつもりかね、周りのことも考えず、思いついた順に? 愚かだよ。やめておけ」


 束ね髪が昼間とは違い、巻き毛に兄貴分のような口調で話すのをゼンコーはぼうっとして聞いていた。

 それを見て束ね髪、


「私は彼に、剣の手ほどきをしていたんだ。昔だがね。警備を志望するというから」

「そうでしたか」


 すると巻き毛が言う。


「お前さんと変わらないよ。お前さんは教会に拾われて学問が進んだ。俺はね、剣を覚えたのさ」

「暴れ者で手が付けられないからとね、押しつけられたんですがね、私はね」


 そういう小坊主もまた、いるのだろうなとゼンコーは思った。

 貧しさで賢いのに学校へ行けず、教会に入門して学問をする道を選ばせる家もある。

 教会を飾る絵やガラス工芸を学ぶ道もある。

 生まれた場所に剣の師匠が見当たらない場合は、巻き毛のような道もあるだろう。そのような手を差し伸べる場を、教会は持っている。


 となれば。

 巻き毛も自分と同じ、捨て子なのか。または。ゼンコーははっとした。


「さて、もう戻りなさい」


 束ね髪が、先輩僧侶らしい顔に戻った。


「剣の稽古なら、またつけてやるから。

〈全甲〉くんも、今晩は災難だったが、仲良くしてやってくれ」

「はい」

「どうもゼンコー、呼ぶと歯がゆいような顔をするな」


 巻き毛、顔を覗きこんでくる。


「ゼンコーが嫌かな。

 なら、ゼン公でどうだ」


 あまり変わらないではないか。


「それも嫌なら、ゼンだ」

「どちらでも」


 見回りが戻る頃だと、束ね髪が目配せする。

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