番外編
私が怖いもの
お昼を食べて、私が嫌いな英語の授業が終わり、放課後のホームルームが始まる。
これからやるホームルームと、明日に終業式が終われば、4月の中旬くらいまで春休みだ。
そして来年から高校2年生になって、また新しい生活が始まる。今からでも、
ホームルームが始まるまでに私たちは、帰りの支度をする。
支度をするって言っても、ノートと筆箱を入れるだけだけど。
ノートと筆箱を通学バックに入れて、ホームルームが始まるまで時間が空いたから、スマホを見て時間を潰す。
「よし、始めるぞー」
担任の加藤先生が教室全体に響くように言う。すると、教室中に散らばっていた生徒が自席に戻っていく。
生徒が自席に持っどったのを確認すると、加藤先生がホームルームを始めた。
「明日は、終業式だ。いつも通り遅刻しないように。それじゃぁ解散」
加藤先生がそう言うと、教室にいる生徒が一斉に席を立って、バックやリュックを持って部活やクラブなどに行く。私たちがいるクラスのほとんどは部活やクラブをやっている。
一方、私たちは部活やクラブに入っていない、いわゆる帰宅部ってやつ。
「一樹! 帰ろ!」
「ちょっと待って」
一樹はまだ準備が出来ていないらしい。
学校での一樹は準備が遅い。家だと私の方が遅いのに。
いつも家では私が待たせる側なのに、学校に来るといつも一樹が待たせる側になる。
いつも私が待たせているから文句は言えないけど、あんなに時間があったのに何をやっていたのかって毎回思う。
しかも、今日に関しては特に遅い気がする。
「お待たせ」
「遅いよ! 待ちくたびれた」
「そんなに時間かかってないだろ」
「私的には遅いの!」
「家だと心優の方が遅いでしょ」
「それは仕方ないじゃん。オシャレしないといけないから」
今日の一樹は遅いって言うか、なんかとろいって感じがする。何かあったのかな?
「てか、心優ってそんなにせっかちだったか?」
「え?」
「え? って」
「あ~、もしかしたら、今日は一樹はいつも以上に遅かったからかも」
「どういうこと?」
「今日の一樹って、なんか一つ一つの動きがとろい気がする」
「そんなことはないと思うけどな」
「うそだ~」
「あ~、ちょっと眠いんだよね」
「そうなの? 大丈夫?」
「たぶん大丈夫」
本当に大丈夫かな? なんだかすごい眠そうに見えてきた。
別に昨日夜更かししていたわけでも、今朝早く起きてた感じもなかったし。
「無理しないでね」
「ありがとう」
通学バックを持って教室から出て、もう誰も歩いていない廊下を二人で歩く。
誰もいない廊下に、コツコツと足音をさせながら生徒玄関に向かって歩いて行く。
なんか、誰もいなくて廊下を歩いているのが私と一樹だけだと、今この学校に私たち以外いないように感じる。
良かった、日と電気が点いてて。日と電気が無かったら、完全に肝試し状態だった。私って、肝試しとか心霊系がすっごい苦手で、中1の夏に心霊ドラマを見た日の夜中は怖くて徹夜した覚えがある。
ホントにあの時は怖くて寝れなかった。私の黒歴史の一つ。
何かそんな事を思い出していると、怖くなってきた。
周りから部活動の音がたくさんしてくるのに。ドキドキしてきたな。早く帰りたいな。とりあえず一樹の腕に抱き着いてみる。
「どうしたの?」
「なんか怖くなってきて」
「何に?」
「今、この廊下に私たちしかいなくて、太陽と電気が落ちたら肝試しみたいになっちゃうなって思って。私って、心霊系って苦手だから」
「そうだったね。心優は極端に苦手だもんね」
「そんな事を考えてたら怖くなったの」
「そっか。俺たちはそこは真逆なんだよね」
そう。一樹は私と違って、心霊系の話やドラマを見ても何事もないようにしている。
凄いよな。どうしたら心霊系に強くなれるんだろう?
心霊系に強くなりたいな。
一樹の腕に抱き着いて教室から歩いて生徒玄関に着いて、私は安心したから一樹の腕から離れる。
「もう大丈夫なのか?」
「うん。もう大丈夫。ありがとう」
生徒玄関までくれば流石にもう大丈夫。でも、いくら外で声がしてても誰もいない学校はなんか不気味な感じがする。誰かいるってわかってても。
それにしてもなんで私はこんなに心霊系が苦手になったんだろう?小学生の時はそんな事なかった気がするのに。中1に見た心霊ドラマが強烈だったのかな? そんなに強烈だった覚えはないけどな?
生徒玄関から門をくぐって駅に向かって、一樹と手を繋いで歩く。やっぱり一樹の手はいいな。学校であんなことを思い出していたから、一樹の手の温もりはこれでもかってほどたまらない。安心できる温もり。
「心優って、なんで心霊系が苦手なの?」
「なんで心霊系が苦手かって言うと・・・・」
さっき話した私が中1の時に心霊ドラマから心霊系がダメになった話をした。
あれ? この話って同棲する前に話した気がするけど?
「そうだったんだ」
「そうなんだよ。て、こんな話1年前にも話した気がするけどな」
「え⁉ そうだっけ⁉」
「そうだよ。話した覚えあるもん。ちゃんと聞いてなかったんでしょ」
「恐らく。俺には無縁の話だったからかも」
「ひどい」
「ごめん。そうすねないでくれよ」
「すねてないもん」
「すねてるじゃん。ほっぺをそんなに膨らませて。針で突いたら破裂しそうだぞ」
そう言って私の頬を指で突いてきた。
「ちょ、ちょっとやめてよ」
一樹が頬を突いてきたから、一樹と繋いでいる手をそのままに少し遠ざかってみる。でも、まだ突いてくる。仕方ない。こうなったら!
「えい!」
一樹の頬を突き返せばいいんだ。
「うわ! やめろ!」
「一樹が突いてくるから突き返しているの」
「それは心優が素直じゃないから」
「私はいたって素直だけど」
「嘘を言うな」
一樹がさらに突いてきた。だから私も負けじと突き返す。
それからしばらく手を繋いだまま突き合っていると、
「お前らはこんなところで何をしてるんだ」
後ろから、何やらあきれたような声で言ってきた。ふと後ろを向くと、加藤先生が居た。
「か、加藤先生。えっと、これは……」
「こんな公共の場で頬を突き合ってんなよ。車と歩行者から丸分かりだぞ」
そういえばそうだった。
歩道と言ったってすぐそばには車道がある。それにいくらイチョウの木が歩道と車道の間にあっても木の間から見えてしまう。だから車道からも見えるってわけだ。
今そうやって考えるとなんだか恥ずかしくなってきた。無意識のうちにやってしまったからかな?
「アハハ。そ、そういえば先生今日は早い帰りですね」
「アハハじゃないよ。仕事も終わったし、校長も帰ったから今日は帰るんだよ」
「そうなんですね。あれ? 先生は歩いてきたんですか?」
これから帰るのに車じゃない。てっきり加藤先生は車で来ているものだと思ってた。
「いや、車だよ。職員用の駐車場が下にあるんだよ。だから校長と教頭以外は、毎日下の駐車場に止めて歩いているんだよ」
「そうだったんですね。知らなかったな」
「そうだね。俺たちって来るのが遅いから先生と合わないんだよな」
「お前たちはいつ来てるんだ?」
「えっと、ホームルームの15分ぐらい前に来ています」
「そんなに遅くに来てるのか」
「そのくらいじゃないですか?」
「いや、遅いよ。あ~、でもお前たちの家は遠いからな」
「他の生徒より遠いですね。電車もバスも使ってますし」
「移動距離は長いな。時間もかかるし」
「でも毎日の登下校は楽しいから全然苦痛ではないです」
「それは良かった」
もう毎日の登下校が私にとって楽しくて仕方ない。
「楽しいなら良かった」
今日は早く帰る加藤先生と下にある駐車場までいろんなことを話しながら、駐車場に向かって歩いて行く。
主に私たちの日常生活について聞かれていたけど。ちょっと恥ずかしかったけど。
加藤先生って私たちの事を気にかけてくれている気がする。まぁ、教師だから生徒を気にかけるのは当然だち思うけど、他の生徒より優しい気がする。私たちが同棲してて親元から離れて暮らしているから? そんな事ないと思うけど、私にはそう感じる。
加藤先生と合って10分ぐらいしたら教師用の駐車場に着いた。
ここだったんだ。ここに駐車場があるのは知っていたけど、まさか教師用の駐車場とは知らなかった。
「ここだったんだ」
「そうなんだよ。ちょっと遠いけど運動になるから丁度いいんだよ」
「大人になると運動をしなくなりますよね」
「前に学校に赴任していた時は駐車場が校舎にあったらあんまり歩かなかったから、若干生活習慣が変わった気がするんだよ」
「それは生徒として良かったです。それでは私たちは帰ります」
「うん、また明日な」
「はい。さようなら」
加藤先生と別れて私たちはいつもの駅に向かって歩く。
やっぱり、加藤先生は優しいな。授業を教えるのはも上手いし、しかも可愛いんだよな。
男子にはあんまり人気はなさそうだけど。もったいないな、あれで彼氏がいないなんて。
もしかしたらいるのかもしれないけど。
駅に着いていつも通り電車とバスで家に帰った。
学校で元一番の彼女は、俺と同棲している 宮原翔太 @beniume
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