最終回「ミラの建国宣言」
ミラ・クーフィル・アザランドは、アザランド王国・ドラグヴァン帝国の両国に提案をした。それはミラが君主を務めるスカイギアを領土とした新国家を正式に国家として承認すること。
その見返りとしてミラは、両国にスカイギアの装備を用いた防衛力を両国の有事の際には提供することを約束。
ドラグヴァン帝国側は当初この提案に難色を示していたが、アザランド王国側があっさりと飲んだため、ドラグヴァン帝国側も折れざるを得なかった。
拍子抜けするほど意外であったが、ミラはアザランド王国側がそう動くと読んでいた。
それは父親の情ではない。結局今回の一件で一番得をしたのはアザランド王国だ。
ドラグヴァン帝国は龍人と試作兵器の邪神十一体を失い、アザランド王国とアザランド王国の元王女の作り上げた新国家に睨まれる格好となっている。さらにアザランド王国内での邪神運用を示威行為として利用する計画も頓挫。
結局ドラグヴァン帝国が邪神を兵器化したという事実は、世界の軍事バランスを一転させドラグヴァン帝国の優位になるどころか、ミラの保有する機械龍と龍魔弾の脅威を世界中に知らしめるパフォーマンスに利用される格好となってしまった。
現在機械龍は、スカイギアの形態でクリヤルタ山脈から三十キロ離れた平原地帯を低空飛行している。間もなく新国家樹立の宣言がされるのだ。
新国家の国民計四十七名がスカイギアの上甲板に集まっており、ミラとアリアの登場を待っている。
カイは、ジュウロウとリディアに挟まれて国民たちの先頭に立っていた。
「しかし事がトントン拍子に運んだなァ。主殿の言う通り、全てはジャン国王の掌の上だったわけか」
「姫様はそれを承知でやったわけさね。結果望むものは手に入れた。それにしてもおっさん。あんたもここに根を下ろすとは思わなかったさね」
「一度じっくり腰を据えてみるのも悪くはねぇとおもっただけよォ……なぁ小僧」
「ん?」
「おめぇの人生は幸せだったか?」
神妙な面持ちのジュウロウに、カイは飄々とした微笑みを返した。
「まだ寿命を終えてないから何とも言えんさね。だが、現状で言えば感謝してるよ」
「感謝ァ?」
「生みの両親と育ててくれた忍の里にさね。そうでなけりゃ俺はここにいない。姫様にもアリアにも出会えてない。二人に出会えただけで俺からすれば幸せって言えるんじゃないかね」
「……恨んじゃいねぇのかァ?」
「事情はあったんだろうさ。まぁ目の前にいたら一発かましてやりたいところさね」
「甘んじて受けるだろうなァ。どんなクズ親でもよォ」
自嘲するジュウロウから視線をそらしてカイは、呟いた。
「まぁもしも俺の親父があんたみたいな男だったら嬉しいかもしれんさね。伝説の蒼脈師の息子だって……胸を張れるかもしれんさね」
ジュウロウは一瞬目を丸くしたが、すぐにいつも皮肉っぽい二枚目半の表情を取り戻した。
「……おめぇさんみたいのが息子なのはごめんだぜェ」
「やっぱ訂正。俺もあんたみたいな父親だったら願い下げさね」
「二人とも素直じゃないね」
二人のやり取りを無言で眺めていたリディアは、二人に聞こえるようにそう言った。
ジュウロウは、唇を尖らせている。
「どういう意味でィ?」
「例えばだけどさ。生き別れた息子を殺す計画が進行しているのを察知。自ら討伐隊として名乗りを上げるも、その実、息子と再会して最後に父親らしいことをするため。自分がわざと殺されることでかわいい息子が逃げる時間を稼ごうとするいじらしい父親、みたいな妄想してみたり?」
「……なんだそのクソ親父。俺に子供がいたとしてそもそも捨てんわァ」
「止むにやまれぬ事情があったとか? 常に命を狙われる身故に、息子の命を守るためにあえてとかさ」
「なら忍の里なんかに預けねぇだろォ!」
「帝国にいた頃、噂で聞いたんだけどさ、忍の里の連中は、孤児院とかから有望そうな子供を見繕ってさらったりもしたらしいじゃないか。世界的に有名な蒼脈師の息子ならさらう対象にもなると思うんだよね?」
探るようなリディアの視線を交わしてジュウロウは水密扉を見やった。
「……ほれ。もうすぐ主殿が出てくぞォ」
「そうさね。ここから始まるんだ。新しい世界が」
上甲板へ続く水密扉が開かれて、ミラとアリアが姿を現した。ミラの左手とアリアの右手は一緒に巨大な国旗を握りしめている。
ミラとアリアは立ち止まると、国旗を掲げた。それは白地に機械の龍が象られた意匠である。
ミラが魔力を込めて右腕を振るう。すると十三個の通信用魔法陣が展開された。
「今ここにミラ・クーフィル・アザランド改め、ミラ・ミーシャ・ドラゴニアが宣言する! 新たなる国家の生誕を! 人と龍が作り出す新しい国家の枠組を! 全ての領空を支配する空中国家ドラゴニア共和国の建国をここに宣言する!」
どこまで広がる空に、ミラの建国宣言が高らかに木霊した。
おわり
反逆姫と薬学師 澤松那函(なはこ) @nahakotaro
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