【クリーチャーズ・ハウス】Day0.2 「Johnny,killer,past」

母さんは優しいけど、凄く厳しい人だった。

父さんはチャリティボックスを蹴ったり、

道端のホームレスに唾を吐きかけるような酷い人だった。

でも、僕はどっちも同じように好きだった。酷い父さんも、優しくて厳しい母さんも。

「あなたは笑顔でいなさい、ジョニー。

他人の笑顔を見て嫌な人なんていない。」

…あの時の母さんの言葉が、まだ…永遠に続く呪縛みたいに頭にこびりついているんだ。

5歳の時…僕は両親にこっぴどく叱られた。

何でも僕が、父さんと二人で留守番してたときに家で飼ってたビーグル犬を絞め殺したらしいんだ。驚いた父さんが止めても、犬の鳴き声が弱々しくなって痙攣を始めても一切聞かなかったらしい…でも、僕には何のことか分からなかった。本当に何も分からなかったんだよ。何せ、僕にはそのビーグル犬を触った覚えすらないんだ。…犬は昔手をひどく噛まれてから苦手なんだよ、トラウマでさ…。

電車の玩具で遊んでたら急に怒られたんだ。

「ジョニー、こっちに来なさい!」

母さんの声は今まで聞いたことがないくらいに怒ってた。何のことか分からずに母さんの所に行ったら叩かれたんだ。思いっきり、頬っぺたを。僕が痛いのと困惑で驚いてると母さんはこう続けた。

「お前がジェームズを殺したのね!」って。

…あ、ジェームズっていうのは犬の名前ね。

さっきも言ったけど、僕には一切そんな覚えはないんだ。触ったこともない犬を殺せるはずもないしね。で、僕は言ったんだ。「そんなの知らないよ!」ってさ。当然でしょ?

そしたらもう一発叩かれた。今度は頭を。

「嘘をつかないで、ジョニー!父さんが言ってるのよ!止めたのに聞かなかったって!」

…分かるかな。母さんにどれだけ言われてもさ、僕には分からないんだ。そのまま黙ってたら父さんも来て、「…ジョニー、お前は俺がいくらやめろと言ってもジェームズの首を絞め続けていた。力ずくで止めようとしたがお前に振り払われたんだよ。」なんて言い出すんだ。僕、すっかり混乱しちゃってさ。

…気付いたときには、足元に父さんと母さんの死体が転がってた。どっちも首を絞められて殺されてたよ。でね、僕はびっくりして…咄嗟に電話で警察の人を呼んだんだ。

「父さんと母さんが首を絞められて殺されてます、犯人は誰だか分かりません。」って。

そしたら警察の人はすぐに来てくれて、僕のことを怖かっただろって心配してくれたよ。…大丈夫、「キャスト」さん?なんだかすごく怯えてるみたいに見えるけど。

(ジョニーの話を聞いていると、マリーナの警告をふと思い出した。少し背筋が冷えるのを感じつつも首を横に振り、話の続きを促す。)

…まあ、いいか…それでね、僕はしばらくして児童養護施設に送られたんだ。でも…あそこは酷いところだったよ。ご飯は少ししか出ないし、皆にも変なやつだ、図体は大きいくせに弱虫だっていじめられてたし。僕…我慢できなくなって逃げたんだ。でも、当然逃げても行くところなんてないから施設から遠くの森で震えてたら声を掛けられた。

それが、マリーナだよ。

**

歩き疲れて、森の奥で座り込んだ。

もう、どれくらい歩いたかな…施設ははるか遠くに、施設で一番高い灯台の頭が少し見えるくらいまで離れていた。歩く理由もないし、歩きすぎて足の裏がじんじんしてきたんだ。しかも靴擦れもしてて痛かった。

「……疲れたなぁ……」

思わず口から愚痴が漏れる。

「………ねえ、どうしたの?」

気を抜いていると、急に声をかけられた。初めは僕を追いかけてきた施設の職員さんかと思って黙ってたんだけど、思いきって顔を上げたら人形みたいに可愛いんだけど、どこか無機質な雰囲気の女の子が僕の目の前に不思議そうな顔をして立ってたんだ。

「…………き、君は…?」

その子はちょっとだけ怖かった。だから、僕は聞いてみた。そしたらその子は平淡な感じで答えたんだ。「…………私は、マリーナ。人形だよ。」って。聞いたら聞いたで余計怖くなっちゃったんだけど、なんだかその子に親近感が湧いたんだ。その子も森の中を歩いてきたみたいで、履いてるパンプスはつま先に跳ねた泥がこびりついて汚れてたんだ。着てるワンピースも木の枝かなにかに引っかけたみたいであちこち破れてた。僕がとりあえず立ってみたら、マリーナは思ってた以上に小さくて…僕の腰くらいまでの身長しかなかった。

「僕は、ジョニー。マリーナ、君は一人なの?」

思わずそう、口から飛び出てたんだ。あの時は施設の職員さんが施設の子を使って僕を連れ戻しに来たんだろうって思ってたのかもしれない。でもマリーナは察したみたいに黙って頷いた。急に力が抜けて…思わずマリーナの手を握ってた。僕と違って白くて、小さくて…ちょっと力を込めたら折れちゃいそうだった。その時、雨が降ってきた。僕は濡れてもいいんだけど、マリーナは僕より小さいし細いから…すぐに風邪を引いちゃいそうに見えて。

「…わ…雨だ。どこか雨宿りできる場所、探そっか。ちょっと我慢してて。」

僕、とりあえずマリーナを守ろうって思って…雨から守れるように抱き上げたんだ。

マリーナは何も言わなかったけど、しばらくしてから建物を指差した。ちょっと古臭そうに見えたけど、とりあえず雨はしのげそうだった。玄関のアンティークランプが点いてたから、多分人もいるだろうって思ってドアを叩いたんだ。

(ジョニーが少し疲れたように息を吐く。 )

ふぁ……あ、ごめんね。ちょっと眠くて…お話はここまででいいかな?後はマリーナが話したことと大体同じだよ。

(眠そうなジョニーに無理をするな、と伝えた。話を一通りまとめ終わってから席を立ち、次の…メアの元へと向かう。)

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クリーチャーズ・ハウス 匿名希望 @YAMAOKA563

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