【クリーチャーズ・ハウス】Day0.1「Marina,dolly,past.」
私は、生まれたときから「人形」だった。お父さんもお母さんも、私を人形みたいだと言って可愛がってくれた。いつも人形みたいにしていれば、幼稚園の先生も友達も私を可愛いと言って誉めて、仲良くしてくれた。
ーだから、私は「人形」になった。
人形は口答えなんてしない。人形は汚い言葉なんて使わない。人形は怒ったりしない。人形は…
…私が完璧な「人形」でいれば、お父さんもお母さんも可愛がってくれたの。
(手に持っていた古いスクラップブックをめくる。ページを少し送ると発行元がばらばらの新聞記事のスクラップが貼り付けられているページを発見した)
1995年 5/7 ◯◯新聞
【◯◯市郊外の別荘地で殺人事件!】
被疑者は××××(35)、被害者は◯◯◯◯さ
ん(32) ◯◯さんの死因は頭を斧で殴られた際の頭蓋骨陥没。被疑者は「あいつは娘を人間だと呼んだ、私の可愛い娘は完璧なほど人形なのに。そう思ったら無性に腹が立って斧で殴りかかっていた」と容疑を認めているものの、供述に精神異常を疑われる点が多々ある。警察は被疑者の精神鑑定を行うと決定したことを公式に発表した。
1995年 8/9 ××新聞
【別荘地殺人事件の犯人、死刑執行】
三ヶ月前に発生した殺人事件の被疑者である××容疑者に本日未明、死刑が執行された。
……………「キャスト」さん、どうしたの?
顔色、悪い……風邪、ひいてるの?違う?……そう。じゃあ、続けるね。
私のお父さんは、私が人形であることにこだわりすぎたみたい。それで、私を人間だって言った近所の人を殴ったの。「私の娘は美しい人形だ、こんなに可愛い娘が私たちのように醜い人間のはずがない」って。お父さんは警察の人に連れていかれて、私は一人になって…そこで、ジョニーと会ったの。
**
児童養護施設を抜け出して歩いていると、ひとりの男がマリーナの目の前にいた。
「………ねえ、どうしたの?」
何かに怯えるかのように震えながらうずくまっていた男はその声に反応するかのように顔を上げ、マリーナを見つめる。
「……き、君は…?」
「…………私は、マリーナ…人形、だよ。」
マリーナの言動に男は首を傾げつつもすっと立ち上がる。立ち上がるとマリーナの2倍くらいありそうな大男は、「僕は、ジョニー。マリーナ、君は一人なの?」笑顔の仮面と相まって薄気味悪いほど爽やかな声でマリーナにそう問いかける。マリーナが静かに頷くとジョニーは「そっか!なら僕たち、一人ぼっち同士だね。」マリーナの白く小さく、ジョニーがほんの少し力を込めれば折れてしまいそうな程に華奢な手を包み込むように握り、腰を屈めながら目線を合わせ、仮面越しにマリーナに微笑む。マリーナがまた静かに頷いた後、彼女の頬を滴が濡らした。雨だ、そう思った瞬間に雨脚は一気に強くなる。
「…わ、雨だ…どこか雨宿りできる場所、探そっか。ちょっとだけ我慢してて。」
ジョニーはひょいとマリーナを軽々抱き上げ、お姫様抱っこのような形でマリーナを雨から守りながら雨宿りできる場所を探し始めた。マリーナはされるがままにぼんやりと風景を眺めていたが、ふと建造物を見つけた。
その建物は少し古臭そうな雰囲気ではあったが、雨宿りくらいは出来そうに見える。マリーナがその建物を指差すとジョニーはマリーナを抱き抱えたままその洋館の扉を叩く。
「すみません!雨宿りさせて貰えませんか!」
しばしの沈黙の後、扉が開く。
中から姿を見せたのは古文書らしき古い本を本来ならば頭のある位置にくっつけた異形だった。二人が驚いているとその異形は親しげな調子で「おや、それは大変だ!さあさあ、どうぞ中へ。暖炉に当たられますか?暖かい紅茶はいかがです?」一気にまくし立てる。
二人が異形の言葉に甘えて紅茶を啜っていると、異形は二人を見つめてこう言った。
「お二人共、ここに住んでみませんか?酷く退屈なのですよ。たった一人でこの広すぎる洋館に長く住んでいる、というのは。」
二人は顔を見合わせる。どうせ行く場所もないのだ、ここに住んだっていいだろう。……それに…なんだか、ジョニーとは上手くやっていけそう。こくりとマリーナが首を縦に振る。しばらくしてジョニーも首を縦に振ると異形は楽しそうに笑いながら「ありがとう
ございます、お二人共。二人も増えれば少しは寂しくもなくなるでしょう…おや、名乗り忘れておりましたね。私はリチャード。この館の主です。」と、名乗った。
(マリーナが疲れたように肩を落とす。どうやら、彼女の話はこれで終わりらしい。席を立って、次の…ジョニーの所に向かおうとするとマリーナに裾を掴まれ、止められた)
………………待って、「キャスト」さん。
私たちのこと………あんまり、知らない方がいい。…特にローウェルは、他の人に自分のことが知られるのは嫌いだから。
…………ジョニーは大丈夫だと思うけど…
気をつけて、ね。
(マリーナの静かな警告にローウェルの姿を想像してしまい、背筋が凍りつつもマリーナに礼を述べて部屋を立ち去った)
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