速度

高里 嶺

速度

 速いことが良いこととされる風潮が蔓延し、全てにおいてスピードが優先されるようになった。車はスポーツカーが一番人気になり、公道の速度制限は撤廃された。会話は一瞬のジェスチャーでやりとりされるか、高度に短縮化された記号によるチャットで済まされた。調べ物をするときは検索画面の一番上に来る情報が答えだし、デバイスがあれば活字の本は不要だと言われ図書館は閉鎖された。何事もスピードと効率こそが正義だった。


 僕はそんな世の中についていけなかった。徒歩で移動するのが好きだし、適当なお喋りを愛していたし、図書館でじっくりと本を読むのが生きがいだった。速さなんてどうでもいい。


 やがて倍々ゲームのようにスピードを競う人間たちは自分の人生を擦り減らし、寿命が縮んでいった。ついには早く死ぬことが美徳とされる風潮となった。


 僕は長生きしたかった。読みたい本がまだたくさんあるから。ゆっくりと本を読むには人生は短すぎる。


 生き急ぐ人たちに向けて、僕は一冊の本を書いた。他愛のない会話や、活字による読書の復権を提唱し、ゆっくりとした生き方を薦めるものだ。


 本は速く生きるのに忙しい人々の目には留まらず、全く売れなかった。

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速度 高里 嶺 @rei_takasato

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