終 ここから始まる

 目を開けると、朝日のまぶしさに顔をしかめた。ゆっくりと体を起こす。

 こんなにぐっすりと眠ったのはいつぶりだろう。今朝は頭痛すらない。

 コーヒーのにおいに導かれるように部屋を出ると、キッチンに立つ彼の背が見えた。

 迷いなく彼に近づくと、その大きな背にそっと顔をうずめた。

「『おはよう。』」

 自然と出た朝の挨拶だが、すごく久しぶりな気がする。

「昨日はごめんなさい。お祝い、今夜でもいいかな?」

「……昨日、なんかあったっけ?」

 彼は自分の誕生日も忘れていたのだろうか。

 いや、それがきっと彼の照れ隠しなのだろう。その証拠に、彼は手を額に当てたままこちらを見ようとしない。

 どうして忘れていたんだろう。彼に恋して、きらきらと輝き出した世界に感動して流した涙があったことを。

 長いこと、彼に恋していた。

「いつもありがとう。これからもよろしくね」

 ほら、こんなにも愛しい。

 世界はこんなにもやさしい。


 生まれ変わったように感じる朝。

 ここから新しい日々が始まる予感がした。

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ここから始まる日々 七瀬 橙 @rubiba00

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