第4話
ようやくメモの意味が分かった、と言ってもすぐに打つ手があるわけではない。
メモはガリウムでした、そう聞いても具体的に行動に起こせるわけがない。
単体のガリウムなんて信哉の死と直接的に結びつけることはできるはずがない。
やはりガリウムに込められた真意が分からなくてはどうしようもないのだ。
犯人の手掛かりはガリウムのメモ以外にも一つだけある。
誰のものか分からない毛髪だ。
これが犯人のものである可能性は高いが、範囲を絞らないと有効な手段にはならない。
その範囲を絞るためにもガリウムのメモの真意を掴むことは最優先のタスクなのだ。
もちろん、地道ではありながらも信哉の身辺調査は行われている。
ただこれといったものがないというのが現状だ。
捜査陣は事件当日の信哉の行動を再度追った。
家族全員が出掛けるまでは生存が確認されている。
問題はそこから儔子が帰宅するまでの間に何が起こったのか、ということだ。
学校や仕事で家を留守にしている時間帯なので強盗犯と鉢合わせして、というのも考えられないものではない。
ただ、強盗犯にしては殺すのに手をかけすぎだ。
睡眠薬で眠らせて練炭自殺に装うためには相当な時間が必要で強盗犯にそんな猶予があるとは考えがたい。
となると顔見知りの犯行だよな、と顔を見合わせて確認する。
儔子は遺品整理に追われていた。
警察の捜査に一つ区切りが付いたため、信哉の部屋に一人入ってみるとあれこれを思い出してしまう。
まだ生まれたばかりのときから少し反抗するようになった今までが走馬灯のように蘇ってくる。
あんなことやこんなことをしてあげたかったな、そういう後悔の気持ちも湧いてくる。
教師たちは信哉が伝えたかったガリウムの真意を彼等なりの目線で考えていた。
普段の信哉の学校生活から垣間見れる僅かなものが解くためのヒントにならないか、そう思ったのだ。
理科の教師たちは科学的な視点からガリウムの意味を探った。
ガリウムの性質や反応性、用途から攻めていこう、というわけだ。
警察では多分できない、教師ならではのやり方でそれぞれが意味することを考えた。
警察も負けてはいない。
警察の捜査網を駆使して信哉と関わりがあり、尚且つ手を
警察からすればガリウムが分からなくてもここで被疑者を特定できればどうってことないのだ。
信哉の同級生たちは全員が事件が解決してくれとただそればかり願っていた。
信哉に対して酷いことをしていた人たちはもう信哉を毛嫌いなどしていなかった。
クラスで一致団結して早い事件解決を願っていた。
事件は急展開を迎えた。
一人の女性が自首してきたのである。
彼女は信哉の家から三軒隣の32番地に住む専業主婦だ。
信哉の家族全員が出払った後、家を訪問し犯行に及んだという。
近所では面倒見が良い人として知られていて特に信哉の家にはしょっちゅう来ていた。
事件当日も自然に家に侵入し、朝食に睡眠薬を混入させた。
信哉は朝食を終えるとすぐに自室に戻る。
そのタイミングで寝てしまうように飲ませる睡眠薬の量を調整していた。
自室で信哉が寝たことを確かめると部屋の空気の流れを断った後で練炭を焚き、家を出た。
立ち去るときには自分がそこにいた痕跡を残さなかった。
殺害の動機は信哉の態度にあった。
家を出入りしていると信哉自身ではほぼ何もやらずに人任せでそれが当たり前のように振る舞う。
しかも何かある度に“そんな母親だからあんな息子なんだなぁ”とぼやく。
実母・儔子がいるときには“良い息子”を演じて彼女がいない影で出す信哉の本性がとてもじゃないが気に入らなかった。
そしてそれが爆発して犯行に及んだ。
起こらなくても良い事件だった、そう誰もが思っていた。
一人の尊い命がこんなにも簡単に奪われるなんて許されることではなかった。
Light Emitting Diode ~青~ キザなRye @yosukew1616
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